novel

□Crime of thing dying
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 ピンク色の空を見上げていると、急に腹が鳴った。

「……腹減った……」

 悟空は腹を押さえて呟いた。
 
 死んでいるのだから腹など減るわけがない。

 それでも悟空は腹も減るし睡眠もとる。

「変わった死人だな」

 界王は半ば呆れて言うが、当の本人は意に介せず。

 毎日毎日修行をし、腹が減っては食べ、眠くなれば寝る。

 その繰り返しだった。

 しかし常にそうだったわけではなかった。

 時々物思いにふけっている姿が見られた。


 ボーっと座り込んだり寝転んだり、いつも同じ姿ではなかったけれど、発する空気は同じだった。


 いつもは太陽のような孫悟空ではなかった。
 その時は憂いを帯びた普通の青年だった。


 この日もそうだった。

 腹は減ったがここでの食事は味気ない。

「……チチの飯が食いてぇなぁ……」

 ふと漏らしていた。

 チチの作る食事は今までに食べた物の中で格別に美味いと感じる物だった。

 温かい湯気の向こう側に見えるチチの笑顔を見ながら食べる事が好きだった。

「……チチに会いてえなぁ……」

 無意識に呟いた言葉にハッとし、思わずキョロキョロと辺りを見回す。

 よかった、誰もいない。

 さすがの悟空もこんな事を他人に聞かれるのは照れくさい。

 ふと我に返ったが、やはり先程呟いた言葉を今一度噛みしめる。
 
 チチに会いたい。

 本音だった。

 
 まわりには淡白に見えるだろう。チチ自身も悟空にそれほど愛されていないと感じているかも知れない。

 だけど本当は心底愛していた。自分の命だって投げ出しても惜しくない程、妻を愛していた。

 いや、今でも愛している。

 根無し草のような自分に家族を与えてくれたチチ。

 必ず帰れる場所を作ってくれたチチ。
 
 切れた凧のような自分をいつまでも待っていてくれるチチ。

 地球人でなくても、宇宙人であろうとも、変わらず愛してくれているチチ。 

 そして、愛するという意味を教えてくれたチチ。

 自分の伴侶はチチしかいない。
 
 死んだ今となっても、自分にはチチしかいない。

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