novel

□Crime of thing dying
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 チチの料理が美味いと感じるのは本当に美味いという事もあるが、チチが作ったからだという事が一番の理由だと気付いたのは此処に来てからだった。

 結婚した当初は約束だからと一緒にいたが、そのうちチチが傍にいると胸が高鳴り、落ち着きを無くす自分に戸惑った。

 一緒にいればいるほど自分でもおかしくなるほどに手離し難くて、前はくっつかれると落ち着かなくなったのに、くっついていないと寂しく感じた。


 それが恋であり愛だと知ったのは結婚してずいぶん経った頃だった。


 悟飯が生まれてからは悟飯にかかりっきりになっているチチにやきもきしたが、自分の血を引く悟飯が可愛いのも当然で、だからチチがどんなに悟飯ばかりで自分に構ってくれなくても我慢できた。

 自分の子を生んでくれた愛しいチチだから、どんな事でも許せた。


 照れもあるから自分の感情を出す事もない。そういう感情の表し方も知らない。

 そういう悟空だから、まわりから見たら淡白に見えたかも知れない。

 本当はもっと言葉や態度で示すべきだったのかも知れないが……。


 セルゲームの前の9日間、悟空はいつも以上にチチを求めた。

 その時は何故だかわからなかったが、無性にチチを欲した。

 そんな悟空に戸惑いながらも、チチは悟空を受け入れた。

 チチも何かを感じていたのか、いつも悟空の胸で泣いていた。

 悟空もそんなチチの心中を察して強く抱き締めた。

 お互いに強く強く抱き締め合った。決して離れぬように……。

 このまま二人、溶けて消えてしまってもいいとさえ思える程に……。
 
 悟空は気付いていたのかも知れない。もうチチを抱く事を出来ない事を。


 あの時言っておけばよかったと後悔する。


 『愛している』と。

 
 だけど言えなかった。

 言ってしまうと戻って来れないような気がした。
 
 チチの元へ戻れないかも知れない。
 そう感じていた。

 だから言ってしまえば、自分に敏感はチチの事だから気付いてしまうだろう。

 いや、言わなくても気付いていたのならば言ってしまえばよかったのか?
 
 でもアイツならこう言うだろう。
 
 『無事に戻って来たら聞かせてけれ』と。

 
 最後にチチに遺した言葉は『すまねえ』だった。

 これも本心だった。
 
 帰れなくて、死んでしまって、約束を破って『すまねえ』。

 
 死の間際、最後に思い出したチチの泣き顔は、前夜の泣いてグチャグチャになった顔だった。

 だから余計に罪悪感に駆られた。
 
 これから自分が犯そうとする罪。

 チチを置いて逝く事の罪の大きさ。

 だけどチチを、地球を守る為に出来る事はこれしかなかった。
 
 
 決して帰りたくなかったわけじゃない。
 今でも帰りたい。

 でも自分が悪い奴を呼んでいるのならば、自分はいない方がいいのだと、潰れそうな思いを封じ込めて納得した。

 チチを、悟飯を、友を、地球を守る為、偽善的だと言われてもいい。ただ守りたかっただけなのだ。

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