novel
□a modest wish
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地球の救世主と彼の仲間は言うだろう。
でもそんな事自分には関係ない。自分にはただの男。たった一人、心から愛した夫なのだ。
どうしてこの人なんだろう。どうしてこの人が、自分達の息子が危険な目に遭わなくてはならないのだろう。
本当は黒髪の、今は金色の夫の髪を撫でる。
「オメエに触るのは好きだけど、オメエに髪を触って貰うのが好きなんだ」
気持ち良さそうに目を瞑る夫。
「そうけ?」
「うん」
幼い頃の息子が膝で寝ている時の顔を思い出す。
やっぱり親子だ。
(悟飯ちゃん、ちゃんと飯食ってるだか……?)
ふと息子を思い出す。
元々しっかり者の息子ではあるし、彼の師匠も一緒なら心配無いだろうが…。
「こら、他の男の事考えてんじゃねえぞ」
「へ?」
夫が睨みつけて見上げてくる。
「何だべ?突然」
「オメエ、悟飯の事考えてただろ?」
ぷう、と頬を膨らませている。
「何でわかるんだべ? ていうか、悟飯は悟空さの息子でねえか?」
「息子でもオメエが他の男の事を考えてるのは嫌だ」
「何言ってるんだか」
プイと膝の上の夫から顔を背ける。
照れ隠しだった。
決して言葉で表現してくれる人ではなかった。でもこうして時々思いがけない愛情を向けてくるのだ。
それはいつも突然で、本当に思いがけない形で。
普段はそんな素振りも見せない朴念仁なのに、時々、独占欲の塊のような態度を見せる。
しかし、こうして夫の愛情を感じる事はあるのだけれど、それでも決して、自分が欲している言葉をくれた事はない。
本当に愛されているのかという不安は絶えずあるのだ。
(まるで子供だな)
いつもはそう思うのに、今は何となく違う。
夫はそっぽを向く自分のうなじに手をかけ引き寄せると、お互いの顔は自然と近付く。
軽く、そして深く口付ける。
息子を神殿に預けてから、夫は貪欲に自分を求めてきた。
まるで自分を刻み込むように。
まるで自分に何かを残すように……。
夫が何を考えているかなんてわからない。
ただ、何かを覚悟しているのはわかる。
そして、その夫の覚悟は自分を不安にさせるものなのだという事はわかる。
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