novel

□moon set
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「オメエにこうして自然に触れるようになったの、いつ頃からだったんかなぁ」

 ふと思った事を口にしていた。

 すると妻は大きな黒い目を更に大きくして自分を見下ろしてきた。


 ああ、また同じ事を考えていたか。


 自分と妻は時々同じような事を考えている事があるらしい。

 自分は相手に触れるだけで、何となく相手の考えている事がわかるのだが、妻にはそれを使った事は無い。

 だけども、妻の思っている事がわかるというか、妻が今怒っているとか泣いているとか笑っているとか、そういった事が遠く離れていてもわかった。

 本当はわかった気でいただけかも知れないが……妻の事は何でもわかっていたいというのが本音ではあったのかも知れない。

 妻の柔らかい身体に頬を擦り寄せていると、目の前に迫った闘いの事など忘れてしまいそうになる。

 それほどこの妻は自分の気持ちを穏やかにさせ、それでいて嫉妬で荒くれさせたりもする。


 何故新婚の頃はこの妻に触れる事を怖がったのだろう。

 今ではわからない。

 だけど初めて触れた妻の身体は、自分の為に生まれてきてくれたのではないのかと思うほど、離れがたいものだった。


(ああ、初めて抱いた時からか)

 この女は自分のものだと思えたあの時から、妻に触れる事を恐れなくなった。

 自然に触れる事ができるようになった。

 ずっと自分の髪を撫でている妻の手が気持ち良くて。

「オメエに触るのは好きだけど、オメエに触って貰うのが好きなんだ」

 思わず言っていた。

「そうけ?」

 妻はそっけない返事のわりには嬉しそうな顔をした。


 本当はそんな妻を見ているのが好きだった。


 ふと、妻の思考に他の男が浮かんだのを見過ごせない。

「こら、他の男の事考えてんじゃねえぞ」

 妻はキョトンとしてこちらの顔を覗き込む。

「オメエ、悟飯の事考えてただろ?」

「何でわかるんだべ? ていうか、悟飯は悟空さの息子でねえか?」

「息子でもオメエが他の男の事を考えてるのは嫌だ」

 少しふてくされ気味に言う。

 いくら息子でも、妻の思考を独占する事が許せなかった。


「何を言ってるんだか」

 そんな風に言ってもわかっている。

 妻の顔が赤くなっている事を。照れているんだっていう事を。


 そんな妻が無性に愛しい。

 そっぽを向いた妻のうなじに手をかけ自分の顔の方に引き寄せ口付けた。

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