novel
□the first desire
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初めてだった。
こんなモヤモヤした気持ち。
初めてだった。
誰かが傍にいる事が、こんなにも苦しいなんて
こんなにも胸が締め付けられるなんて−
そして、こんなにも切なくなるなんて−
「すっかり遅くなっちまった」
悟空は筋斗雲の上から明かりの灯っていない我が家を見下ろして呟いた。
金色の雲から玄関の前に飛び降りる。
「チチ、もう寝ちまったかな……?」
自分が帰宅するのが遅くなったくせに、迎えてくれる存在が寝てしまったかも知れない事を寂しく思う。
そのくせチチの顔を見ると胸がザワザワとして落ち着かなくなる自分がいて、持て余し気味のそんな感情に流されなくて済むと安堵してしまう。
ふう、と息を吐いて玄関の扉を開ける。
薄暗い部屋。
でも夜目の利く悟空は暗いリビングのソファにその存在を確認した。
「チチ?」
その影は名を呼ばれてビクッと動いた。けれど決してこちらを振り向こうとしない。
「……こんな所で何してんだ?オラ、オメエはとっくに寝ちまったかと……」
「寝ちまってた方がよかっただか?」
間髪入れず、チチは低い声で呟く。
「……チチ?」
いつもと違うチチの様子にさすがの悟空も戸惑った。
「……おめえ、ブルマさの所に行ってただか?」
悟空に背を向けたまま、チチは言った。
「ああ。オメエ何で知ってんだ?」
悟空は何事も無かったように告げる。
「……飯も……食ってきただか?」
「ああ、丁度腹も減ってたしよ。」
悪びれもなく、その言葉を吐く。
「……じゃあ、おらはもう必要ねえべな……」
小さく呟くチチ。
「……チチ? 必要ねえって何がだ?」
聴覚のいい悟空にはチチの小さな小さな呟きも聞かれてしまう。
「……何でもないだ。おらもう寝るから」
そう言って寝室に入ってしまった。
悟空が帰宅してから、ただの一度も悟空の方を見ずに……。
残された悟空は茫然と立ちすくんでいた。
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