novel

□“Thank you” to you ―『ありがとう』を君に―
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「……赤ん坊……? オラの……?」

「当たり前だべ!! 他に誰がいてるって言うんだべ!?」

 少し怒ったような言い方のチチだったが、その顔は幸せに満ちていた。


「……オラの子……」

 悟空は夜毎行われるその行為によって子が成されると言う事は、チチを抱くようになってからチチによって教えられた。

 チチは早く悟空の子が欲しいと望んでいたし、自分もチチがそんなに楽しみにしているのならば、きっととてもいい事なのだろうと思っていた。

 それが今現実になっている。


「……悟空さ……嬉しくないのけ?」

 茫然と黙ったままの悟空の様子に、チチは不安になった。


 ……自分の子……チチとオラの子……。


 何だかとても嬉しくなった。


『チチとオラの子』


 なんて甘美な響きなんだろう!!


 不安げなチチに、

「嬉しくねえわけねえじゃねえか!! チチとオラの子ができたんだろっ!?」

 太陽のような、満面の笑みを浮かべた。

「んだ。悟空さとおらの子だ!!」

 チチは悟空に抱きついた。


 夫婦はその幸福に酔いしれ、強く抱き合っていた。

 そして悟空はチチの腹に顔を寄せた。

「ここにいるんか? オラ達の子」

「んだ。ここにいるだよ」

 チチはそう言って悟空のあちこちにはねた髪を撫でた。


「ん?」
「どしただ? 悟空さ」

 腹の中から感じる小さな気。

「ああそうか。おめえだったんか。」

 家の中で感じていた例の小さな気は、チチの腹の中から感じる気そのものだった。

「何がだべ?」

 1人で何かしら納得している夫を訝しむ妻。

「いや、オラずっとコイツの気を感じてたんだ。ただ何かわかんなかったしよ。オメエに言うとおっかながるだろ?」

 腹の所から見上げる悟空。

「……そうだけんど……ならおめえの方が先にこの子の事に気付いてたって事だか?」

 何だか残念そうな、それでいて嬉しそうなチチ。

「でもよ、オラ何の気かわかんなかったから一緒だ」

 そう言ってニカッと笑う。


 そんな夫を見て溢れんばかりの幸せに酔いしれる。

「おめえのおっ父はおめえの存在にいち早く気付いてくれてただよ。幸せだな」


 そう言ってお腹を撫でながら微笑むチチの姿がまるで聖母のようで。


 そんな妻を見ていると思わず呟いていた。

「……幸せだな」

「んだ。幸せだ」


 こんなに満たされるなんて。

 まだこんなにも小さな気なのに、コイツはたくさんの幸せを運んでくれた。

 コイツはすげえヤツだ。

「早く出て来ねえかなぁ」

 チチの腹に顔を押しつけたまま呟く。

「……だな。早く会いたいだな」


 祖父を亡くし、天涯孤独だった自分に新しい家族与えてくれたチチ。

 この小さな女は何て凄いんだろう。

 自分はチチに何をしてやれるんだろう……。


「ありがとな、悟空さ。おらに赤ちゃんを授けてくれて」

 そう言って優しく微笑むチチ。


 
 ……ありがとう? おらが?


 キョトンと見上げる悟空にチチは続ける。

「悟空さがいなかったらこの子には会えなかっただよ」

「そうなんか?」

「そうだべ。夫婦は与えて与えられて、それから二人で分け合っていくもんだべ」


 その目はとても優しげで、慈しみを帯びていた。


「……そうか」


 嬉しかった。

 チチからの「ありがとう」はとても胸に染みた。


「ありがとう、チチ」



いい事も悪い事も、嬉しい事も悲しい事も、
二人で分け合っていこう。

そして、二人が出会って、
愛し合って生まれたこの命を、
二人で守っていこう。


 end



      
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