novel

□Evening glow and life
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自分の半身を殺がれるというのはこういう事なんだろうか?

この地球の為に逝ってしまったあの人は、
もう戻ってくる事は無いのだから。



 今日もパオズ山は穏やかに晴れていた。

 いつものように静かではあるし、事件らしい事件も起こる事は無いだろう。


 ここにある小さな白い家も同じだった。

 いつものように毎日が過ぎていき、何事もなくただ時間は過ぎていく。


 ただこの家の主だけがいない。

 
 この家の主・孫悟空は2ヶ月前に死んだ。


 地球を守る為に。


 その身を犠牲にして、自分の息子に全てを託して、彼は死んだ。

 そのお陰で地球は平和になったし、地球上の皆がいつも通りの生活に戻る事が出来たけれど、彼の家族だけは違った。

 悟空が死んだ事実だけは消えないし、彼の家族にポッカリと大きな穴が開いた。


 それでも時間とともに彼の家族は普段の生活を取り戻し、悟空を亡くしたショックから立ち直っていった。

 彼の妻・チチも、訃報を聞かされた時は夫と共に逝ってしまうのでは無いかと危惧されるほどの落ち込みようであった。

 突っ伏して泣いて、息子・悟飯の身体を抱き締め泣いて、その後、気を失うように深い眠りについた。
  
 それから3日、チチはただ窓辺で虚空を見つめていた。

 何も映していないチチの瞳に、時折涙が溢れていた。

 その姿は儚げで、いつ消えてしまってもおかしくないほどで……。



 悟飯が生まれて、その愛情の全てが悟飯に向けられてたとまわりの人間は思っていたが、チチの悟空に対する愛情は少しも薄れていなかった。それどころか深いものだと、そのチチの姿を目の当たりにした事で、仲間の誰もが思い知らされた。

 
 そんなチチも少しずつ元気を取り戻し、以前と変わらぬ生活を送れるようにまで回復していた。

「悟飯ちゃん、お勉強が終わったらおやつにするべ」

 悟飯の部屋のドアを開け、声をかける。

「はい」

 悟飯は教科書とノートを閉じ、部屋を出た。

 リビングで肉饅を食べながら悟飯はキッチンで炊事をするチチの後ろ姿を見遣る。


(お母さん……もう大丈夫みたいだ)

 心の中でホッとする。


 父親を死に追いやったのは自分だと、悟飯は胸を痛めていた。

 自分さえ調子に乗らなければ……早々にセルに止めを刺しておけば……と。


 それによって父は死に、母までもこの世を去ってしまうではないかと思うほど悲しませた。


 後悔は先に立たないもので、今こうして悔やんでいても時間は戻らない。

 自分がお父さんの代わりにお母さんを守らないと。悟飯は心に誓っていた。

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