novel

□証
1ページ/3ページ


本当に愛されていたかなんてわからない。
本当に愛されていたかなんて自信がない。

でも、あの人が遺したものは、確かに此処に息づいている。



 仕事に行き詰まったブルマが気分転換にお茶でも飲もうと立ち上がった時、電話が鳴った。

「はい?」
『ブルマさ?』
「チチさん!?」

 電話の相手は昔馴染み、孫悟空の妻・チチだった。

『ブルマさ、話があるんだけんど、今度伺っていいだか?』

「ええもちろん!! あ、私がそっちへ行くわ」

 次の休みにパオズ山の孫家へ訪れる事を約束し、ブルマは電話を切った。



 チチは2ヶ月前に夫を亡くしたばかりだった。

 地球を守る為に命を落とした悟空。

 チチと悟飯がいるにも関わらず生き返る事を拒否した。

 その理由の一つが自分が発した言葉にあると責任を感じていた。


『悟空が悪者を引き寄せる』


 つい言ってしまった。

 それがこういう結果になってチチを苦しめる事になるとは、その時は思わなかった。


 ブルマは悟空の死後、チチの弱さを見てしまった。
 
 いつもは悟空を一蹴するほどの迫力を持つチチ。
  
 そんなチチが悟空の死の直後、生きがいだと思われてた悟飯の言葉も耳に入らないくらい意気消沈していた。

 いつも誰かが見張っていないとその命を絶ってしまうのではないかと危惧してしまうほどだった。

 その様子に誰もがチチの悟空への愛情の強さを再確認した。

 悟空に会う為に天下一武道会に出場するくらいだった。


 それほど深い愛情を持っていたのだ。

 
 ブルマも同じサイヤ人を愛した者同士、サイヤ人との子供を持つ身となってからはチチの事は気にはしていた。


 最初は悟飯に対する過保護振りを怪訝に思っていたのだが、自分もサイヤ人との子を持ってからはチチの気持ちが理解できた。

 どこか危なっかしい、いつどこへ消えてしまってもおかしくはない父親のようにはしたくはない。

 その気持ちの表れだったのだと。

 それ以来、お互いによき理解者になれると思えた。


 そのチチが悟空の死により生きる気力すら失っている。

 ブルマは孫家に留まり、チチを励まし続けた。

 悟空が愛したチチを守る事が、自分の悟空への贖罪のように…。


 だけどチチを知れば知るほど、チチの悟空への愛情の大きさも深さも知った。

 何があっても悟空がここへ戻って来たのはチチがいたからだ。

 悟空を人にし、男にし、父親にしたのは間違いなくチチだった。

 チチの悟空への惜しみない愛情が、悟空をここに留め、何があっても帰って来る要因になっていたのだろう。

 それに応えるように、悟空もチチを愛していただろう事は彼らの結婚からの5年間の空白、悟飯の誕生から容易に窺い知れた。


 それに二度の死。

 いずれの死も、最後の言葉はチチの事だった。


(そんな言葉より、チチさんはアンタに傍にいて欲しかったのよ!!)

 心の中で叫んでも、悟空へ届くわけがない。

 窓辺で何も映していない瞳で佇むチチを見て、何度も何度も心の中で叫んだ。

 自分のおかげではないだろうが、しばらくして元のチチに戻った。

 安心できたところで西の都の自宅に戻ってきたのだが、それから2ヶ月、悟飯に様子を聞くところによると悟空が死ぬ前のチチに戻っているとの事だったので、今まで傍観してきたのだった。

 時々電話で話をしていたのだが、お互いに当たり障りの無い事ばかりで悟空の事には一切触れずにいた。

 そのチチから会いたいと言ってきた。
 電話ではなく会って話したいと言うチチの様子に、何か深いものが含まれているような気がした。


. 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ