novel

□アイシテル
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心が弾む

家に帰るのがこんなに楽しみなんて、いつ以来だろう?

ああそうだ。じいちゃんが生きていた頃だ。

あの頃以来だ。

でもあの頃ともちょっと違う。

もっとドキドキワクワク、そんな気持ちなんだ。



「たでえまーっ!!」

 オラは勢いよく玄関を開けた。

「お帰り、悟空さ」

 チチはまるでオラが帰って来るのがわかってたかのようにパタパタと駆けて来る。

 オラもその姿が嬉しくて、つい腕を広げたけど、チチのその手にはバスタオル。

「ほら、お風呂沸いてるから入って来るだよ」

 そう行ってオラにバスタオルを手渡した。

「……お、おう……」

 てっきり飛び込んで来るかと思ったのに……。

 ……なんだ……。


 ちょっぴり残念だ。そう思ってるとチチがクスッと笑って、オラの頬にチュッとキスをした。

「早く入って来るだよ。すぐにごはんにするから」

 そう行って台所に駆けて行った。


 チチがキスした頬は熱くて、何か胸もドキドキした。

 早く風呂に入ってチチの顔を見ながら飯を食いたい。

 オラは猛ダッシュで風呂へ行った。


 身体も髪もちゃんと洗わねえとチチが怒る。

 今まで風呂なんか別にどうだってよかったけど、汚ねえままだとチチにどやされるし、第一チチに触らせて貰えねえ。


 それは困る。


 だから風呂にはちゃんと入るんだ。



 チチとケッコンしたのは3ヶ月前だ。

 最初はケッコンの意味も嫁の意味もわかんなかったし、約束とはいえ面倒くせえ事になっちまったかなとか思ってたけど、牛魔王のおっちゃんの城が燃えちまって、チチと二人で芭蕉扇を探す旅に出て、チチとずっと過ごすうちに知らず知らずのうちにチチの事が大事になってた。

 八掛炉で死んだじっちゃんに会って、アンニン様に「八掛炉の火を止めたら世界がめちゃくちゃになってしまう」って言われた時、オラはそんな事どうでもいいって思っちまった。

 牛魔王のおっちゃんを助ける方がオラには大事だった。

 牛魔王のおっちゃんが好きだってのもあったけど、何よりチチが泣くのが嫌だったんだ。 


 チチの為なら何だってしてやりてえ。


 例え世界中を敵に回したって―そう思ったんだ。


 だからじっちゃんに逆らっちまった。

 命をかけてでも八掛炉に飛び込めたのはチチの笑った顔が見たかったからだ。

 牛魔王のおっちゃんを助ける事ができて、オラ達は結婚式ってヤツを挙げた。


 それでこのパオズ山に二人で帰って来たんだ。

 でもついこの間まで、オラはチチに触る事が恐かった。

 最初はチチが腕を組んでくるのも、頬にキスしてくるのも、ちょっとわずらわしかったけど、今ならわかる。あれは恥ずかしかったんだって。

 そのうちチチと一緒にいるだけで胸がモヤモヤしてきて、くっつかれるとドキドキしてどうしたらいいかわかんなくって、チチの腕を振り払ったりわざと離れたりしてしまった。

 チチに自分のどす黒い部分を知られて嫌われちまうんじゃねぇかって、すごく恐かった。

 一度チチが出てっちまった時は今までに無かったくらい焦っちまった。
 気が読めなくなるくらい焦るなんて初めてだった。

 だけど、チチに触ってもいいって言われて、オラは初めてチチを抱いたんだ。

 それ以来オラはチチを手離せなくなっちまった。

 いや、もうずっと前からだ。

 ケッコンした時から、再会した時から、オラはチチに捕まっちまったのかも知れねえ。


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