novel

□恋心
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 悟飯が恋をしているらしい事は、チチがウキウキ話さなくても悟飯の態度で悟空にも何となくわかった。

 何だか上の空でボーっとしている時がある。
 かと思ったら、その名が出るだけで妙に赤い顔でそわそわしたり……。


 ブウと戦った時に一人悟飯の生存を信じていた黒髪の少女。ミスター・サタンの娘、ビーデル。



 彼女が悟飯の想い人である事は誰の目にも明白だろう。


 しかし、悟飯は自分は恋をしている事を自覚しているのだろうか?

 悟空は自分がそうだったように、息子の悟飯もそうかも知れないと思い、チチに聞いてみた事がある。


『さあな。悟飯が気付いてるのせよ気付いてないにせよ、こういう事は自分で解決していくもんだ。そっとしとくのが一番だべ』

 ビーデルの事を悟飯の将来の嫁などと言っていたくせに、肝心は所ではこうだ。
 
 でもそんなもんかと、悟空は妙に納得したりもして。

『でも悟空さがその事に気付くなんてな。おらびっくりしたべ!!』

 チチは目を丸くした後に笑ったが、それくらいわかっぞ。と反論した。

 
 それはかつての悟空もそうだったからだった。

 チチと結婚した当初、悟空の中に不可思議な感情が芽生えた。

 チチを見ていると妙にドキドキした。落ち着かなくなって持て余し気味の感情に辟易した。

 だからと言ってチチから離れる事なんて出来なかった。

 でも、その気持ちが何たるかを知った時、ストンと心に何かが落ちたような感覚だった。

『チチが好き』『チチが大事』

 それだけで十分、理解できるものへと変貌した。

 だけどそれを口にする事がなかなか出来なくて、言わなくてもわかるだろうと、驕っていたところもあったように思う。
 
 でも言わなかった事を死んでから後悔した。何で言ってやらなかったんだろうと。

 好きである事を伝えるのに何を躊躇う必要があったのだろう。今ではそう思えるのに、あの頃は照れや羞恥の気持ちが先行して言いたい事も言えなかった。

 息子である悟飯にはそんな後悔をして欲しくないと思うのも父親としての心情。

 だから幼い悟飯に言った事がある。

『オメエにもいつか母さんみたいな人が現れる。その時はでえ好きだって言ってやれ。』と。

 その後に『父さんは母さんに言ってやれねえけどな』と付け加えたが。

 悟飯は悟空の子であると同時にチチの子だ。

 悟空の鈍さと共にチチの一途さも合わせ持っている。

 悟空もチチだけという一途さを持っているが、闘いが絡むとそれだけになる傾向があるのは余談だが。

 思い悩む悟飯の後ろ姿に、かつての自分を重ねる。

 チチへの想いに悩み苦しんだあの時の自分も、今の悟飯のようだったのだろうか?

 あのビーデルという娘もチチに似ているところもあるように思う。


 黒髪。武術をやっているところ。気の強さ。


 そういうところは似ている。

 またそんな相手に惚れた自分達親子も。

 ただ悟空がチチに惚れた理由はそれだけではなく心根の部分が多くを占めているが、悟飯もきっとそうなのだろう。

 悟飯と悟天の共通点を見付ける事はあるが、自分達親子の共通点も見付けたようで何となく嬉しくも思い…。

 やっぱり親子だな。と妙に納得できる。


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