novel

□恋心
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 だけど、かつての自分がチチに気持ちを伝える事が出来なかったように、悟飯も言えないのでは……? と危惧する思いも無きにしもあらず。


 自分が言えなかったのに、悟飯に『言っちまえ』なんて偉そうな事言えねぇなぁ……と、悟空は今更のように思う。

 昔は自分が言えなかった分、悟飯には言える男になって欲しかったが、悟飯がこんな所まで似てしまったのか? と苦笑もしたり。

 だけどチチの言う通り、こういう事は自分で解決するしかないんだろうなと思う。

 こういう感情は誰に教えられるものではなく、必ずしも正しい答えがあるものではない。

 自分達のように初めて恋をし、そして愛した人と子を成し、一生を共にする事が出来る事がとても恵まれた事なのだと知ったのは、きっとブルマとヤムチャの事があったからだろう。


 未来からトランクスが来るまで、あの二人は結婚をし、子を成すものだと思っていた。


 それがブルマがかつて敵であったべジータと子を成すなどと微塵にも思っていなかったが、これも皮肉な運命なのだとも思った。


 現在のべジータとブルマには確かに愛があると感じられる。小さいトランクスも幸せそうだ。


 クリリンにしても、かつての敵である18号に恋をし、彼の行動により18号は心を開き彼に惹かれていった。

 あんなに結婚に憧れていたクリリンも今ではいい父親になり、幸せに暮らしている。


 そういう風に生じる愛もあるのだ。

 だから悟飯がどういう風に恋をし、どういう風に生涯の伴侶を手に入れるかはわからない。

 それでも、悟飯の伴侶が今恋をしているだろう相手ならいいなと悟空は思う。


 悟空はチチを得るまで恋とは、愛とは何たるかを知らなかった。


 それを知り、思い悩み苦しんだ事もあったけれど、それでもこの感情を知れた事に幸せを感じる。それは心から愛している相手と添い遂げられる恵まれた立場から言える事かも知れないが、それでも悟空の中に生じたこの感情は、無知で強くなる事にしか興味がなかった自分をただの一人の人間だと感じさせてくれたと悟空は思っていた。


 チチによってもたらされたその甘美な感情は一生忘れる事はないだろう。


 悟空は自分の所に来てくれたチチに感謝しながら、子供部屋の外から恋に悩む自分達の愛息の背中を眺める。

(頑張れ悟飯。オメエなら大丈夫だ)

 すると悟空の視線に気付いた悟飯が振り返る。

「何ですか?お父さん」
 
 怪訝そうな顔で見る悟飯の元へ歩み寄る。

「何でもねえよ。頑張れよ、悟飯」

 悟空は笑いながら悟飯の背中を叩く。

「?」
 
 キョトンとする悟飯を尻目に悟空は子供部屋を後にする。

 
 悟飯の恋心に思いを馳せていたら急にチチの顔が見たくなった。

 瞬間移動しようかと思ったが、この広くはない家の中でする必要もないだろう。

 それでも、少し足早で妻の元へ行く。

 かつて自分が恋をした、そして今も愛してやまない相手に会いに―。


 end



       
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