novel

□手を繋いで〜悟チチver.〜
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どうしてこの手を離してしまったんだろう。

二度も、この優しい手を離してしまった。

もう二度と、この手を離さない。


 
「悟空さ、手繋いでいいだか?」

 新婚の頃、妻は唐突にこう言った。

「へ?ヤ、ヤダ……」
「何で?」
「何でって……」

 真っ黒で大きな目で見上げられると心臓がバクバクと鳴った。

「ヤなモンはヤダ!!」

 そう言って自分は妻よりも先に歩いた。

 誰もいないパオズ山の中とは言っても恥ずかしいものは恥ずかしい。

 スタスタと先を歩く自分の後方で妻が立ち止まったのがわかった。

「……いいだよ別に……悟空さ、おらの事、好きじゃねえもんな……」
「なっ!?」
 
 寂しげに言う妻の姿が嫌に胸をえぐった。

「なっ、何でそうなるんだよっ!?」

 好きなのに、好きって言えない自分ももどかしくて。

 急に歩き出した妻は何も言わずに自分の横を通り過ぎて行った。

「待てって!!」
「……」

 無言を貫き通すつもりか?それだけ怒っているのがわかる。

「なぁチチッ!! 待てって!!」

 思わず妻のか細い手首を掴む。

「……」

 妻は俯いたまま、こちらを見ようとしない。

 自分はそのまま妻の手を握った。

 妻の身体が一瞬ビクついたのがわかったけれど、そんな事構ってられない。

「……行くぞ……」

 自分にとっては十分羞恥に値する行動だけれど、いつまでも妻の機嫌を損ねているわけにはいかない。

 妻を引っ張るように歩き出す。

 自分はきっと耳まで真っ赤なんだろう。

 妻が嬉しそうに歩調を合わせてきた。

 あんなに嫌だったのに、だんだん心地よくなってくる。

 こうして二人で手を繋いで歩くのもいいと思った。



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