novel
□If, that time...
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天下一武道会から3日、悟空はとりあえず祖父と共に住んでいた、故郷のパオズ山に帰っていた。
あの日から寝ずの修行。とは言っても夢中になりすぎて眠るのも忘れて没頭していただけの話なのだが。
さすがに疲れたのか、祖父の庵には戻らず、小川の流れている少し開けた場所で横になり、そのまま眠ってしまった。
「……さ……くうさ……悟空さ……」
夢うつつの中、優しい声が聞こえる。
その声は酷く懐かしく、そして心地いい。
その声を聞いていると、何だか安心した。
「……さ……悟空さ……そろそろ起きてけれ……」
「……う〜ん……」
悟空はだんだん覚醒する頭で考えた。
(誰だ? 誰がオラの名前を呼んでるんだ?)
「悟空さ、早く起きて朝飯食ってくれねえとテーブル片付かねえだよ」
「メシッ!?」
「やっと起きただか」
その声の主は女だった。
自分を覗き込んでいる黒い大きな瞳。頭の上で黒髪をお団子にした、東方の服を着た女。
どこかで見たような……?
そしてその声にも聞き覚えがある。
「何ボーっとしてるだ? 悟空さ」
その声。そして少し年を重ねてはいるけれど、見覚えのある顔。もしかして…。
「……チチ?」
その女は振り向いた。
「なんだべ?」
3日前、天下一武道会で別れたばかりのチチだった。
だけど、明らかに年を重ねている。
「なんでオメエがここにいるんだ? なんで年取ってんだ?」
そう言うとチチの米神はピクッと動き、
「結婚して20年も経てば年も取るだよ!! おらはオメエと違って普通に年も取るだ!! それにここはおら達の家だからいるんだ!!」
そう叫んで、チチと思しき女はプリプリと怒りながら部屋から出て行った。
「……ケッコン?」
あれ、オラ達ケッコンしなかったんじゃねえのか?それに20年て…?
「……オラ……寝ぼけてんのかな?」
悟空はそう言いながらもとりあえず着替えて部屋を出た。
初めての家のはずなのにリビングの場所がわかる。どこに何があるのかも……。
おかしいな? と思うのだが、でもここがどこかも知っている。
オラの家だ……チチとオラの……そして…。
悟空がリビングの扉を開けると、
「おはようございます、お父さん。またお母さんを怒らせたんですか?」
そう言って苦笑する、年の頃は自分くらいの青年。
「おとうさんおはよう!! 今日はどこで修行するの?」
自分の子供の頃にそっくりな少年。
「オッス。“悟飯”、“悟天”。」
そう、二人の息子との家。…オラとチチの子供達……。
「……オラ……寝ぼけてたみてえだ……」
幸せな生活。チチと二人の息子との、充実した素晴らしい生活がここにある。
何故、チチと結婚しなかったなどと思ったのだろう。
「悟空さ、早く食べてけれ」
「おう」
先程まで怒っていたはずなのに、もう鼻歌を歌いながら炊事をしている。
チチの後ろ姿を見ていると幸せで、そして再び微睡んできた。
寝たくねえのにな……。
そう思いながら再び眠りに落ちた。
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