novel

□Person of the only
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「……悟空さ……」
「な、なんだっ!?」

 背を向けたまま口を開くチチに、悟空は一瞬声が上擦った。

 そんな悟空の様子をチチもまた敏感に感じ取っていた。

(やっぱり、おらといるのは窮屈だべか……)

「……悟空さの好きなようにするといいだよ……」

「悟飯の修行の事か?それなら昼間許してくれたじゃねえか」

「そうでねえよ」

 低く、冷たい声に、さすがの悟空も不穏なものを感じた。

「チチ?」

「好きにするといいって言っただ。宇宙でもどこへでも、悟空さの好きな所へ行くといいだ」

 決してこちらを見ようとしないチチ。

「……な、んで……そんな事言うんだ……?」

「もうおらの事なんて必要ねえだろ? 悟飯も産んだ。悟空さの血を引く子供はちゃんといる。闘いに役立つ子供がな。悟空さには悟飯がいればいいんだ。おらなんてもう必要ねえ。帰って来たくねえくらい嫌いなんだったら、もう……帰って来なくてもいいんだべ……」

 決して言うまいと思っていた言葉。

 結婚して数年間、絶えず不安の中にいたチチだったが、決してこの言葉だけは口にすまいと思っていた。

 だけど、数年振りにこの家に帰って来ても悟空は次の闘いの事ばかりで、決して自分に対する言葉は一つも言ってくれなかった。

 それどころかこんな大怪我を負わされてしまう始末。

 チチにとっても我慢の限界だった。

「な、何言ってんだオメエ……? 何の冗談……」
「冗談なんかじゃねえだよ」

 起き上がり、振り向きキッパリと言うチチの目は本気だった。

 その目を見た時、悟空はチチの本気を感じた。

「……最初っから間違ってた……好きでもねえおらと結婚した事がな……帰って来たくねえんだったらそう言ってくれればよかっただ……そしたらおらもこんな所でずっと待たなかったのに……」

 みるみるうちに、チチのその双眸から涙が溢れ出す。

「何言ってんだよ!! 誰が帰って来たくねえって言ったんだ!! オラ……オメエに会えるのを楽しみにして……」
「なら何で指一本触れねえだっ!?」

 そう指摘された悟空の身体はビクッと震えた。

 図星なんだ。チチはそう思った。

 チチは吹っ飛ばされた以外に悟空に触れられていない事に対しても不安を感じていた。

 もうすでに、触れたくないくらい嫌われているのだと。

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