novel

□Desire-渇望-
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胸が苦しい
胸の奥で何かが叫ぶ。
何かを渇望して、叫んでいる。

何を欲し、叫ぶのか、
まだ自分にはわからなかった。

いや、認めたくなかった―。



 ブルマとヤムチャが別れた夜、泣き疲れたブルマを部屋まで運んだ時から、ベジータは何だかわからない胸のモヤモヤに支配されていた。

 何となく、ブルマの顔を見る事が出来ない。
 顔を合わせると、とんでもない事になってしまいそうな、そんな気がした。

 だから出来るだけこの家に居ないようにしたし、食事に帰る時も、ブルマのいない時間を狙って帰って来ていた。

 しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。

 いつか顔を合わせる時が来るだろうし、自分も帰り辛くなるだろう。

 確かにあの家の重力室は魅力的だが、そこに行く事すら出来ない、この理解不能なこの感情。


 いや、原因はわかっている。


 あの家にいたくない事も、ブルマの顔を見る事が出来ない事も。

 だけど、ベジータはそれを肯定する事を拒んだ。

 そんな感情は自分には不必要だと。


 人は一人で生まれてきて一人で死ぬのだ。ならば生きるのも一人で十分だ。

 孤独の何が悪いのだ。それが戦闘民族なのだ。


 しかしベジータは、自分の中の何かが何かを欲している事を自覚していた。その何かを払拭するようにトレーニングに励む。

(オレはカカロットよりも強くなるのだっ!! それだけだっ!!)

 身体がボロボロなっても、疲れ果てて眠りに就くまで、ひたすらトレーニングに没頭する。

(何も考えるな!! オレは強くなるだけだっ!!)

 そう思っても、ある瞳が、顔が、ベジータの心を支配する。

 自覚などしたくなかった。何も知らずに、何も気付かずに、ただ強くなる事だけを求めて、そう生きたかった。

 浮かんでは消え、消えては浮かんで、その瞳は、その顔は、どうしようもなくベジータを翻弄した。

「……畜生……」

 思わず呟いた。そして荒野に寝転ぶ。

 目の前は真っ青な空だった。

 その色はまるでその瞳とその髪のようだった。


 何故、忘れようとすればするほどに思い出すのだろう。


 ベジータはその空を暫く眺めて、目を閉じた。

 見なければ、思い出すまい…。

 その時、ベジータはある決断をした。


 見なければいいのだ。もう二度と。

「……会わなければ……いいのだ……」

 ベジータはあの家を出て行く事を決心した。



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