novel

□growth
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確かに夢を見た。

心がかき乱されるような、そんな夢。

だけど、その夢の事は覚えていない。

自分にとって大事な事だとわかるのに。

どうして、思い出せないんだろう―。



 天界で修行を始めて、もう1年になる。

 このところ、身体の節々に妙な痛みと違和感を感じる。
 
 その事を神様に聞いてみると、「それは成長期だ」と言った。
 何だそれ? と聞くと、「お前が心身共に大人になる準備を始めたという事だ」と神様は微笑んだ。
 それでも意味がわからなかったら、「そのうちにわかる」とだけ言ってどこかへ行ってしまった。

「……よくわかんねえ……」

 真っ白で無機質な部屋に一人残された悟空は呟いた。


 ベッドに横たわり天井を見る。

(みんな……元気かな?)

 1年前、別れた友人達は元気だろうか?
 悟空はふと地上の師匠や友人達の顔を思い浮かべる。

「クリリン達も修行してんだよな。強くなってっかな?」

 次に会った時、一戦交える事を楽しみにする。

 自分はもっともっと強くならねばならない。それまで地上に降りる事は無いだろう。

(そういや、筋斗雲も元気かな?)

 空を翔る為の相棒。金色の、心の清らかな者しか乗れない雲。

 今の自分はまだ地上に降りる事は出来ない。ここで、もっと修行をしないといけないのだから。


 その時、悟空の脳裏に一人の人物の顔が過ぎる。

(アイツ……筋斗雲に乗れたアイツ……チチって言ったっけ?)

 黒髪の、瞳の大きな悟空と同じ年齢の女。
 男も女も判別できない悟空が股間を蹴って女だと確認した。

 筋斗雲に乗れるくらい心根の綺麗な女。


 ブルマもクリリンもいいヤツなのに、筋斗雲には乗れない。
 いいヤツの二人が乗れないのに、筋斗雲に乗れるアイツってどういうヤツなんだろう?

(よっぽどいいヤツなんかな?)


 悟空は幼き頃に会った少女の事を考える。


「……そう言えば……アイツ“ヨメ”ってのくれるって言ったけど、“ヨメ”って何だ?」

 チチは別れ際に『ヨメに貰ってけろ』と言った。でも悟空はその“ヨメ”というものが何のなのか全くわからない。

 でも何となく、とてつもなくいいものに思えた。

「きっと、すげえ美味え食いもんなんだ!!」

 チチがくれるというものなのだから、それはそれは類まれなる美味なものなんだろう。

(ここでの修行が終わったら、チチの住むフライパン山に会いに行ってもいっかな?)

 悟空はそう思い、静かに目を閉じた。



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