novel
□growth
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悟空はその晩、夢を見た。
何だか自分の背丈が伸びている。
自分の目の前に誰かがいる。
長い黒髪の、大きな瞳の女。
今の悟空よりか幾分背の低い、紺色の道着を来た女。
その女は悟空を見ると優しげに微笑み、そして腕を組んでくる。
悟空は一瞬戸惑った。
何だか妙に胸の奥がザワザワする。この女に触れられると、いや、この女を見ているだけでも、妙に胸の奥がざわつくのだ。
―でも、どうしてもこの女に触れたいと思う自分もいる。でも、この女を傷付けたくない自分もいる。
この女を、この身に変えても守りたいと思う自分もいる―。
今までこんな感情を感じた事はない。
この思いは一体何なのか?
そして、自分にこんな事を感じさせるこの女は誰なのか?
「……おめえ……誰だ?」
悟空はその女に訊ねた。
その女は悲しげな顔をし、
『悟空さ、おらの事、忘れちまっただか?』
消え入りそうな声でそう言った。
その声はどこかで聞いた事のあるような、どこか懐かしさを感じた。
しかしその寂しげな声音に罪悪感が生じたのも事実。
「すまねえ……ホントにわかんねえんだ。頼む教えてくれ」
悟空はどうしても知りたかった。この女が誰なのか。
『おらは――だべ』
「え?」
『だから、おらは――だべ』
わからない。名前だけどうしても聞こえない。
「聞こえねえんだ!!頼む、もう一度教えてくれっ!!」
この女が誰なのか、悟空はどうしても知りたかった。
知らねばならない。そう思った。
『おらの名前は……』
悟空は息を飲む。
『おらの名前は……チチだべ』
「チ……チチ……?」
あのフライパン山の……牛魔王の娘の……?
『悟空さ……おらの事、ヨメに貰ってくれるって言ったのに……』
そう言って哀しげに俯く。
……ヨメ……?ヨメって一体何なんだ?
「……なぁ?ヨメって何なんだ?」
悟空は思いきってチチと思しき女に訊ねた。
『ヨメってのはな……』
一瞬の沈黙。一瞬なのに酷く永く感じた。
『ヨメってのは……』
その瞬間、パアッと辺りが真っ白になった。
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