novel

□愛しいあなたへ―Jealousy is a little spice. ―
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vol.3


「オメエら何してんだよっ!?」

 瞬間移動で現れるなり、悟空は叫んだ。

「ほらな、やっぱり来たべ」

 チチは笑いながら瞬間移動で現れた男達を指差す。

「何だよっ!? オラ達除けモンかよっ!?」
「おめえは子供か?」

 チチは夫の発言に眉根を寄せた。

「だってよ……オメエ今日ブルマん家には行かねえって……」
「行かねえとは言ったけんど、会わねえとは言ってねえべ?」

 チチはしたり顔で言った。


 確かにそうだ。誰も会わないとは言っていない。

 うっ……と口を噤む悟空にチチはニッコリと笑って、

「それより悟空さ、これ」

 と悟空に包み紙を渡した。

「へ?」

 悟空はキョトンとしてその包みを受け取る。

「悟飯君も」
「僕ですか?」

「ほら、クリリン」
「え?オレ?」

「はい、ベジータ。アンタも」
「……なんだこれは?」

 それぞれがそれぞれの相手にそれぞれ包み紙を渡す。

  
 カサカサと音を立てて、男達はその包みを開ける。

 丁寧に開ける者もいれば強引に破く者もいて。


「あ……セーターだ……」
 
 悟飯の手には茶色のセーター。

「……編み目……あんまりキレイじゃないけど……」

 俯きながら顔を赤らめて言うビーデル。

「そんな事ないですっ!! ……とっても……嬉しいです……」

 ビーデルが編んでくれたセーター。赤くなってるビーデルの様子。

(ビーデルさんが僕に……)

 悟飯は感激で胸がいっぱいになった。

 若いカップルはお互いに赤くなった顔を見合わせ、そして微笑み合った。


 そしてクリリンは真っ赤なセーター、ベジータは真っ黒なセーター、そして悟空は真っ白なセーターを手にしていた。

「嬉しいよ18号……オレのために……」

 今にも泣き出さんばかりのクリリンに18号は言った。

「マーロンのついでだよっ!!」

 セーターと同じくらい真っ赤になっている18号の様子でそうでない事はわかる。だけどクリリンはセーターを抱き締めて「ありがとう、ありがとう」としきりに言っていた。


「どう? ベジータ? 私が編んだのよ」

 ニッコリと笑うブルマにべジータは少し赤くなり目を逸らした。

「……」
「何か言ってよ」

 ブルマは言葉を催促するがベジータは無言を貫き通している。しかし、ベジータの耳は真っ赤になっているのがわかった。

「ま、いっか!!喜んでくれてるみたいだし?」
「……フン」

 ブルマはベジータの腕にその腕を絡ませた。

 いつもならば『人前でよせっ』と怒るのに何も言わない。

 ブルマは嬉しくなって身をもっと寄せた。


「……これ……オラのか?」
「そうだべ」

 真っ白なセーターを手にして、そう呟く悟空にチチは首肯する。

「そろそろ寒くなるべ? おめえ、年がら年中あの道着だけんど、家にいる時くれえまともなカッコしてけろ。風邪ひくと大変なんだから」
「ヘヘッ……すまねえ」

 悟空は少し照れたように頬を掻いた。

「あん時もいろいろ疑ってくれたべな?」

 チチは睨みながらもその口角を上げて言った。

「へ?……あ、ああ、あん時か……」

 新婚のあの時、初めて『嫉妬』という感情を覚えたあの時。

「あん時は辛かったんだぞ?」
「でも嬉しかったべ?」

「ああ……そうだな」

 悟空はチチにしか見せない、慈しむような、柔らかい微笑みを返す。

「……サンキュな」
「んだ」

 悟空とチチは微笑み合った。




「それにしてもみんなが一緒に編んでたなんて知りませんでしたよ」

 悟飯はビーデルに貰ったセーターを着て言った。

「おばさんに教わってたの」
「だから放課後も早く帰って休みの日も駄目だったんですか?」

 悟飯は納得したように言った。

「ごめんね。もう大丈夫だから」
「え……ええ……」

 悟飯は真っ赤になって俯いた。


 トランクスを伴って帰ってきた悟天も父と同じ色のセーターを着せて貰い、同じく父と同じ色のセーターを着ているトランクスと嬉しそうに遊んでいる。

「悟飯の分はビーデルさが編んでくれるからおめえの分は編まなかっただよ」

 チチがそう言うと悟飯とビーデルは更に顔を赤くして俯いた。


「それにしてもチチィ、オメエ、夫婦は隠し事しちゃなんねえって言ったじゃねえか?」

 真っ白なセーターを着て、思い出したように言う悟空。

「別に言わなかっただけで隠し事じゃねえべ? 嘘は一つも吐いてねえもん」

 確かに……悟空はそれ以上何も言えなかった。


「まあまあいいじゃねえか!! ホント幸せモンだよオレっ!!」

 真っ赤なセーターで真っ赤になって喜んでいるクリリンに、父親とお揃いの真っ赤なセーターを着ている娘を抱いた18号は小さく「バカ」と言った。

 
 ただベジータだけはその黒いセーターを着ながらも、少し赤い顔をして不機嫌そうにそっぽを向いている。

 本当はこんなところでは着たくなかったのだが、ここで着ないと何となくカカロットに負けたような気がして。

 それにブルマがあまりにも嬉しそうな顔をするので根負けした、というのが本音だろう。

 ブルマはそんな仏頂面のベジータがただ照れているという事がわかる。それに自分の編んだセーターを着てくれたという喜びもあって終始ニコニコとしていた。



 それぞれの温もりをそれぞれに実感できる。

 隣にこの相手がいるだけで、幸せな気分になれる。

 
 あの時……若い頃に味わった『嫉妬』という感情も、この年齢になればわかる。それはある意味いいスパイスだったんだと。


 この、若いカップルはこれからいろんな感情に流されそうなるだろう。

 それでも自分達のように相手を見失わなければ、きっともっと幸せになれる。

 
 悟空とチチは息子達に目を向ける。

 そして同じ事を考えていた事がわかって微笑み合った。


 夫婦にしかわからない、アイコンタクトで。


 その晩、パオズ山には悟空のセーターと同じ色の雪が舞った。


 悟空の手に、それが渡るのを待つように……。


 end
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