novel

□Together forever
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 朝起きて、まず最初にしたこと。

 布団から飛び出し、父の気を探る。

 いたっ!!

 リビングにその気を感じる。

 父が7年振りにこの家に戻ってきて二日。

 正直まだ実感が湧かない。

 生まれたときには既に死んでいた父が今ここにいる。

 夢じゃないのかな?

 まだそんなことを思ったり。

 でも、飛びついて触れた父の胸は硬くて、とても温かかった。



 その日、悟天は生き返ったばかりの父と一緒に寝ると言って聞かなかった。
 しかし悟天は極度の疲労から父と一緒に風呂に入っている間に眠ってしまった。

 初めて触れ合った父と一緒に風呂に入って二人で湯船ではしゃいでいたが、急激な睡魔に襲われた。
 温かくて、優しくて、大きな父に抱かれているとすごく安心してそのまま眠りに落ちてしまった。
 父は兄にも同じようにしていたのだろう。意外にも手際よく寝ている悟天の身体を拭き、パジャマを着せてくれたらしい。

 そして父はその小さな身体を抱き上げる。
 その間のことは夢見心地で、でも何となくだけど覚えている。

 とにかく気持ちがよくて、絶対的に自分を預けられる兄と同じ匂いがした。

 途中で兄と交代したことも何となく知っていたけど、気だるくて『もっとおとうさんといたい』と抗議する元気もなかった。

 明日になっても、おとうさんいるんだもんね。だからいっか。

 そんな気持ちもあったから、悟天は父親の常套句の『まいっか』を夢の中で呟いた。


 翌朝、いつもは寝起きの悪い悟天なのに目覚めるなり飛び起き、リビングへと文字通り飛んで行った。

「おとうさんっ!?」

 リビングへ飛び込むなり、悟天は叫んだ。

 リビングのソファに目をやると、そこには自分と同じツンツンの髪をした父の姿があった。

「お、悟天。起きたんか?」

 太陽のような顔で笑う父に飛びつく。

「おっと」
「おとうさん、ちゃんといたねっ!!」

 飛びついてきた悟天を抱きとめた父は悟天の頭を撫で、

「あまりめえだろ? これからずっとオメエたちと一緒だぞ?」
 そう言って笑った。

 悟天はとにかく嬉しくなって、そのまま父の逞しい胸にしがみ付く。
 その途端、グウ〜と親子の腹が同時に大きく鳴った。

「オメエは見た目もオラにそっくりだと思ったけど、腹が鳴るタイミングまで同じか」

 父は豪快に笑い、「チチィ〜飯〜」と台所の母に声をかけた。
 その声に母は「もうすぐだから待っててけろ」と応えていた。

 そのとき悟天は初めて父と母が夫婦というヤツなんだと実感した。

 昨日も一緒にいたのに、父があの世に帰る前は手を握り合っていたのに、だけど、昨日までの父と母は今の父と母とは少し違った。子供の悟天にはよく理解できていないけれど、何か違った。

 昨日までの両親は、いつも見ているベジータとブルマの夫婦やクリリンと18号の夫婦とは何かが違うというか。

 お互いにギクシャクしているような、照れているような、そんな雰囲気だったのに。
 それなのに今ここにいる父と母がとても自然で、何だか何年も離れていたように見えなくて。

 ふと、しがみ付いた父の身体から母の匂いがした。
 しがみ付いたままクンクンと更に匂うとやはり馴染んだ母の匂い。

「あれ?おとうさんからおかあさんの匂いがする」

 そのとき、父の気が僅かに揺れたのを感じた。

 悟天はキョトンとして父の顔を見上げると、父は笑っているけれどちょっと困ったような焦ったような、何だか複雑な顔をしている。

「ほら、同じ部屋で寝たから、母ちゃんの匂いが移っちまったんじゃねえか?」
「そうなの?」
「そうだぞ。ほら、ずっとオメエを抱っこしてっから、オメエの匂いも移ってんぞ」

 クンクンと自分の腕を匂う父に悟天は「あ、そっか」と得心して、今思いついたことを口に出した。

「じゃあ、おかあさんのことも抱っこしてたんだ」
「いっ!?」

 父は素っ頓狂な声を出し、その気が大きく揺れた。

「どうしたの?お父さん」
「な、何でもねえぞ。ほら、悟天。飯だ飯っ!!」
「ぼくお腹すいた〜」

 悟天の頭の中はつい先程の会話のことも忘れて朝食のことでいっぱいになる。

 お腹を押さえ食卓へと急ぐ悟天の姿を見て、父は大きく息を吐き、母は食卓現れた父の耳を引っ張り、「余計なことを言うでねえ」と目を吊り上げている。
 
 先に食卓に座っていた兄はそんな両親の様子に苦笑しながらも、どこかしら感慨深げに見ている。

 そっか。兄ちゃん、昔っからおとうさんとおかあさんのこと、知ってるんだ。

 当たり前のことだけど、今更のように悟天は感じた。

 兄は自分の知らない父と母のことを知っている。
 自分が生まれる前に父は死んだのだから、本当に当たり前のことなのだけれど。

 少し、羨ましいような……。

 悟天にそんな複雑な気持ちが沸いてきた。

「ん? どうした悟天?」
 悟天の複雑そうな顔に気付いた兄が声をかけてきた。
「……ううん。何でもないよ兄ちゃん」
「そうか?」
 兄はそう言って微笑みながら悟天の頭を撫でた。
 
 さっきまでモヤモヤしていたのに、兄に頭を撫でられただけでそんなモヤモヤもどこかへ行ってしまったようで。
 悟天は「えへへ」と笑った。

 兄も年齢の離れた、父に生き写しのような弟がかわいくて仕方がない。
 やんちゃでわがままで、ちょっと困ったところもあるけど、純粋で素直で、本当に父にそっくりで。

 命を落としてしまった父に代わって、この弟を大事に慈しんできたのだ。

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