novel

□Together forever
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「兄ちゃん、今日は学校行くの?」
「ん? 今日はお休みするよ。昨日の今日だからね。何となくほとぼりが冷めるまではね」

 苦笑してそう言う兄に、悟天は満面の笑みを向けた。

「やった!! 何して遊んでくれるのっ!?」
「そうだなぁ……とりあえずいろいろ片付けなきゃなんないことがあるから、それが済んだら遊ぼうか?」
「わーい!!」
 文字通り飛び上がらんとするほどに喜ぶ悟天に、母は言った。
「悟天ちゃん、兄ちゃんの用事が済んでからだべ」
「わかってるもん」
 悟天は頬を膨らませた。

「ねえ、おとうさんも一緒でしょ?」
「父ちゃんか?」
「うん!!」
「そっだなあ……」

 折角生き返ったのにいますぐ修行をするのはどうだろうと自分でも思うし、妻や長男、今まで接してやれなかった次男との時間を大事にしたいという気持ちも存在する。

「よし!! 悟天、今日は父ちゃんと思いっきり遊ぶかっ!?」
「ホントにっ!?」
「ああ、ホントだぞ。釣りにでも行くか?」
「やった!!」
 
 ついに飛び上がって喜ぶ次男に、母は「お行儀悪いべ」と諌める。
 小さくなって「ごめんなさい」と言う姿がまた父親に似ているので、母と兄は顔を見合わせ笑い、父は二人が何故笑っているのかわからない。

 すると、そんな父が思いついたように口を開いた。

「悟飯も来るだろ?」
 声をかけられた兄は少し考えて、
「……そうですね、行きます」
 ニッコリと微笑んで返事したので悟天はまた飛び上がりそうになったのを抑えた。

「チチは?」
 父は母にも声をかけると、
「家のこと済ませたら行くべか。どうせならお弁当持って行くべ」
 これまたニッコリと微笑んで言った。

「やったね!!」
 さすがに今度は本当に飛び上がってしまった。

「弁当かあ〜そりゃいいなぁ〜」
 父は朝食を食べてる最中だというのに弁当のことに気を取られている。
 そんな父に苦笑しつつ、兄は母に声をかける。
「僕、手伝いますよ」
「ありがと。助かるべ」
「ぼくもっぼくもっ」
「悟天、またひっくりかえしちゃうだろ?」
「ひっくりかえさないもんっ!!」

 そんな息子たちを目を細めて眺める両親。

「オメエたちはホントに仲がいいな」
 そう言った父の顔を見ると、兄と同じ顔で微笑んでいた。
「だって兄ちゃん大好きだもん!!」
 悟天はそう言ってニッコリと笑った。
「そっか」
 父も悟天と同じような顔で笑う。
 そしてふと長男の顔を見ると、少し顔を赤らめて、でも嬉しそうに微笑んでいた。
 その様子を見ているだけでも、この兄弟の仲がいいのはわかる。

 悟天は父親代わりだった兄が大好きだった。

『にいちゃんにいちゃん』

 いつでもどこでも、年齢の離れた兄の後を付いて回った。

 天下一武道会に出る為に兄が学校を休学したときも、悟天は兄について修行をしたし、普段から兄が食料調達の為に出て行ってもついて行って、今では悟天が一人で食料調達も出来るようになった。

 悟天にとって兄は絶対的な存在だった。

 強くて逞しくて賢くて、そして優しくて。

 自慢の兄で。そして父親代わりでもあって。

 自分を、母を守ってくれる存在はずっと兄だった。

 しかし、この父という存在に初めて触れて、こんなにも頼りになる兄とは違う空気を、悟天は幼いながらに感じ取っていた。

 父と再会した兄がとても無邪気に見えた。自分にとってとても大きな存在である兄なのに、父に全てを委ねられるといった空気を発しているそんな兄の姿が、とても子供に見えた。
 自分がいつも兄に抱いているような絶対的信頼感を、兄はこの父に感じているのだということが何となくだけどわかった。

 母でさえいつもの母ではなかったように思えた。

 優しいけれどいつも毅然としていて、悪いことをしたらトランクスが一緒でも容赦なく叱りつけてしまう程の母だけど、そんな『母親』であるあの母が、あのときはまるで知らない女の人のように見えた。

 母が観ているテレビドラマでよく見るような、恋人に会えて心から喜んでいる女の人のような、そんな感じだった。

 何だかキラキラとしていて、自分たち子供には決して引き出せない、そんな風にも思った。

 父のことは必要以上に知らない。

 悟天が生まれる前にセルという悪者と戦って、地球を守る為に死んだのだということしか知らない。

 とても強くて優しくて、そしてあたたかい人だったということだけ。

 実際に接した父はその通りの人だったけれど、超サイヤ人3を見るまでは本当に強いのかどうかまだ半信半疑だった。
 でも、超サイヤ人の父は本当に凄くて、これが自分の父なんだと誇らしくなった。

 フュージョンの特訓で濃密な時間を過ごしたとはいえ先生と生徒という間柄で父と子ではなかった。

 だから父があの世に帰るという別れのそのとき、今まで堪えていたものをあっさりと母に見破られ、そしてその瞬間溢れ出てきた。

 父に抱かれ、その胸に抱き付いて、声を殺して泣いた。父に泣き虫だと思われたくなかったから。

 そのとき死んだと思われていた兄の代わりに母を託され、父との約束は絶対に守ろうと思ったのに、母は無残にも殺された。

 悟天は母を殺された悲しみと、父との約束が守れなかった自責の念でいっぱいになった。

 ごめんなさいごめんなさい、おかあさんを守れなくてごめんなさい。

 心の中で何度も何度も父に謝罪した。

 しかし、自らトランクスとフュージョンをして魔人ブウと闘い、兄やトランクスの父・ベジータ、ミスター・サタン、そして父のお陰で地球は守られ、その父も生き返ることが出来た。

 父が生き返り、悟天たちの元に戻ってきたとき、悟天は父の胸に飛びついた。

『よく頑張ったな、悟天』

 父はそう言って悟天の身体を抱き上げた。

 そしてその瞬間、悟天とその家族との新しい生活が始まった。

 地球が守られ、父が生き返ったということでドンチャン騒ぎが始まるのかと思われたが、存外あっさりとしたお開きだった。

 悟天もトランクスも、皆疲れていた。

 それに皆孫家に遠慮した。7年振りの家族団欒を邪魔したくなかった。

 後日パーティーをしようと約束して、皆それぞれの家路についた。

 飛べない母を父は抱き、天界から飛び降りると筋斗雲を呼んで母と共に飛んでいた。

 悟天も兄も、そんな両親の横を併走するように飛んだ。

 それがつい昨日のことだと、現実のことだとは思えなくて、悟天は何度も何度も夢なのではないかと思った。

 その度に父に触れ、その存在を、温もりを確認する。そして父もその度に悟天に向かって微笑みかけてくれるのだった。

 本当に帰ってきたんだね。悟天はその度に嬉しくなった。

 
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