novel

□A new relation, a new life
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「オメエもサンキュな」
 いつの間にか悟飯の家族が二人の傍に来ていた。
 悟天を肩に乗せ、ビーデルにそう言う悟空は太陽のような笑顔だった。
 悟飯に聞いていた通りの人だ。そう思った。

「い、いえ……私は何も……」
「悟飯が死んだってなったとき、オメエだけは悟飯が生きてるって信じてくれてただろ?親のオラたちだって信じられなかったのにさ」
 悟空がそう言うと悟飯の母であるチチも頷いた。
「んだ。おらなんて悟飯が死んだって聞かされて気まで失っちまった。でもビーデルさんはずっと信じてくれてたもんな」
 悟空もチチも微笑んでいた。
 ビーデルは何だか気恥ずかしくなった。

 あのとき、結構恥ずかしいことを口走っていたような……。

「そうだったんだ……ありがとう、ビーデルさん」
 嬉しそうに微笑む悟飯にそう言われ、ビーデルは真っ赤になって目を瞠った。
「そ、そんなっ、べ、別にお礼を言われるようなことじゃっ」

 恥ずかしさのあまり思わず悪態をついてしまう。我がなら素直じゃないと胸中で嘆息する。
 しかし悟飯は相変わらず嬉しそうに微笑んでいた。見れば彼の両親も弟も。

 ビーデルは一つ息を吐き、悟飯に向き直った。
「今度……また遊びに行ってもいい?」
「もちろんですっ!!」
「おねえちゃんっ、また遊びに来てくれるのっ!? やったっ!!」
 満面の笑みで喜ぶ悟天に思わず顔が綻ぶ。
「ええ、絶対に行くわ」
「いつでも来るといいだよ。オメエは悟飯の嫁になるんだべ。大歓迎だべ」
「へっ!?」
 ビーデルはチチの言葉に真っ赤になって目を瞠った。
「お母さんっ!? 何言ってるんですかっ!?」

 あたふたと取り乱している悟飯の背中を悟空が嬉しそうに笑いながら叩いた。
「おーっ、そっかあ!! オメエもオラと一緒でケッコン早そうだなあ!! さすがオラの息子だな!!」
「お父さんまでっ!?」
 悟飯はもう可哀想なくらい真っ赤になっている。

「なあに言ってんだよ悟空。お前の場合はチチさんが迎えに来てくれたから結婚できたんだろうが」
 すると孫家とビーデルの会話を聞いていたクリリンが横槍を入れてきた。
「そだったな」
 ハハハと豪快に笑う悟空にチチは盛大に嘆息している。
「おかあさんがおとうさんをむかえにいったの?」
 チチは無邪気に訊ねてくる悟天の頭を撫でて言った。
「んだ。嫁に貰ってくれるって言ったくせに、おっ父はすっかり忘れてただよ。悟天ちゃん、おめえは女子さ待たせる男になるでねえだよ」
「うん、わかった」
 悟天は手を上げて元気よく返事した。
「久しぶりに耳が痛えや」
 悟空はチチの言葉に頭を掻きながら苦笑した。
 その様子に仲間たちの間に笑いが起こった。

 7年振りに再会したというのに。悟天に至っては初めて触れ合った父だというのに、この家族は今までずっと一緒にいたかのようにもうすっかり馴染んでいる。

「……いいご家族ね」
 そんな孫家と仲間たちの姿を見て、ビーデルは呟いた。
「……はい。僕の家族は……僕の自慢なんです」
 ビーデルの呟きに悟飯が反応した。
 思わず悟飯の顔を見上げる。
 その顔は誇らしげで、そして嬉しそうだった。

 ビーデルはそんな悟飯の顔を見ていると何だか恥ずかしくなった。
 今まで自分の腕に自信を持ち、町にはびこる悪人を駆除すべく警察に協力してきた。
 正義のため、なんて言っておきながら自分の力を過信し、驕っていたのかも知れない。

 本当の正義の味方は彼らのような人たちだ。
 
 決して表舞台に出ようともせず、影で人知れずこの世界のために戦ってきたこの人たちのような。

 それなのに自分たち親子は、自分たちこそこの世界で一番強いのだと驕り、父に至ってはこの人たちの成果を自分のものにして今の地位を得ていたのだから。

 ビーデルはそう思うと居たたまれなくなった。

「ビーデルさん?」
 悟飯はビーデルの顔が曇ったことに気が付いた。
 この男は普段鈍いくせに、どうしてこういうことには聡いのだろうと思う。

「……今までごめんね」
「何がですか?」
 突然のビーデルの謝罪に悟飯は首を傾げる。

「だって……パパったらあなたたちの手柄を自分のものにして……本当に酷いことをしたわ」
「別に酷いことだなんて思ってませんよ」
「どうしてっ!?」
 悟飯の言葉にビーデルは目を瞠った。どうして酷いことではないと、こうもあっさりと言えるのだろう。

「僕たちは別に英雄に祭り上げられたいとか思ったことないですし。どっちかと言えば静かに暮らしたいんで」
「悟飯くん……」
「だから気にしないで下さいね。むしろサタンさんのお陰で変な探りとか入れられなかったんで助かりました」
 悟飯はそう言って笑った。
「ありがとう……悟飯くん」
「こっちこそ」

 この瞬間、残っていたわだかまりのようなものが払拭されたような気がした。

 これからはきっと、このひとたちと新しい関係を築くことが出来そうな気がした。

 きっと、このひとたちにとって平凡だと思われるだろうビーデルの今までの生活が、このひとたちと関わることによって平凡ではなくなるかも知れない。

 そう思うと何だか胸が騒いだ。

 きっとこれからの人生、もっともっと楽しくなる。

 そんな予感が、ビーデルの中に生じていた。


 end
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