novel

□Succeeded desire
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「それにしても、お前に子供がいるってことは、オレも祖父さんって事だな」
「ああ、悟飯はえれえ強ええ。悟天ももっと強くなる」
「すぐ強くなることばかり言うところがサイヤ人だな」

 バーダックは笑った。

 孫か……。

 目の前の息子のことも抱いてやれなかったのに、孫の姿を見たいと思うのは、どういう心境の変化なのか。

 元々家族の情というものに縁がないサイヤ人なのに……。

「それにえらく別嬪な嫁まで貰いやがって。クソ生意気だな、お前は」
「ヘヘッ、いいだろ?」

 悟空は本当に嬉しそうな顔をした。チチのことを褒められるのは何よりも嬉しいらしい。

「……ああ。お前の母親も別嬪だったがな」
「母ちゃん?」
「……」

 バーダックは遠い目をしながら、妻の姿を思う。

「お前の嫁と同じように黒い瞳が印象的だった」
「……」
「アイツは気が強いくせに甘いところがあった。戦闘民族であるサイヤ人は我が子であろうと戦士として扱う。しかしアイツは違った。本当は子供が……家族が何よりも大事だった」

 そんな父の話を、悟空は黙って聞いていた。

「お前がサイヤ人でありながら平和を好むのは、母親の血かもな……」

 バーダックは目を伏せた。

「……父ちゃん、母ちゃんは今……」
「……アイツは……地獄にはいない。天国へ行ったのかもな……」

 悟空は父の寂しげな目に一瞬言葉が詰まった。

 その目は父が母を想っていることはわかった。いくらサイヤ人の男が女を子供を作る道具として見ていたとしても、この父だけは違うと、この一瞬で理解できた。

 それは自分も一人の女を愛する一人の男だから。

「もう生まれ変わったかも知れねえな。きっともう、会うことはねえな」

 バーダックは自嘲気味に笑った。

「そんなことねえぞ」
「カカロット?」

「母ちゃんはきっと、父ちゃんを待ってる。会いてえって思ってるはずだ」

 根拠はないけれど。それでも悟空は自信満々に言った。

「昔、チチが言ったんだ」

 そうして悟空は話し出した。

 あれは結婚して間もない頃。

 結婚式の神父の言った言葉。

『死が二人を別つまでって言うけんど、おらはそう思わねえだよ』
『じゃあ、オメエはどう思うんだ?』

 その時は『死ぬ前に別れることもある』と言われるんじゃないかと、悟空らしからぬ不安を抱いた。それくらい、チチを意識し、この妻に恋していると自ら認めたあの頃。

『本当に愛し合った夫婦ってのはな、死んだって夫婦なんだ。何度生まれ変わったって絶対にまた巡り会って夫婦になるだよ。死だって二人を引き離せねえんだ』

 そう優しく微笑むチチの身体を思わず抱き締めたことを覚えている。

 現に二度の死においても、それは自分達夫婦を引き離せなかった。

 こうして今も共に生きている。奇跡を起こしてでも、チチの元へ帰って来た。


「……死んだって引き離せねえか……」
「オラ、二度死んだけどその度にチチの元に帰ってる。死んだままだって、チチが来るのを待つつもりだったさ」

 そうはっきりと断言する悟空の姿を眩しそうに見る。

 赤ん坊の頃に一度見たきりの息子は、自分の知らない間に一端の男になっている。

 バーダックはフッと笑い、

「そう……かもな……そうだったら、いいけどな」

 そう呟き、悟空の肩を叩いた。

「よくやったカカロット。お前はオレの誇りだ」

 悟空は目を見開き、そしてその口角を上げ言った。

「父ちゃんがいたから、今のオラがいるんだ。父ちゃんのお陰だ」

 バーダックが黙ったまま穏やかに微笑んだ。

「そろそろ行かなきゃなんねえようだ」
「もう行くんか?」
「ああ、少ししか時間が無いと言っただろ?」

 悟空は名残惜しそうに眉根を寄せ、しかし、その手を差し出す。

「会えてよかったぞ。来てくれてサンキュな」
「ああ、オレもな……」

 バーダックは悟空の手を取り、そしてそのまま悟空を引き寄せ肩を抱いた。

「元気でな」
「ああ……兄ちゃんにもよろしくな」
「ラディッツか。あのバカ息子な」

 バーダックは豪快に笑うと、

「ああ言っといてやるよ。アイツも弟のお前に抜かれてかなり堪えてるみてえだからよ。性根入れ替えてやり直せってな」

 そう言って悟空の背中を叩いた。

「……じゃあな。お前の家族と、ベジータ王子にもよろしくな」
「ああ。ベジータも家族が出来て幸せそうだぞ」

 バーダックはハハッと笑い、

「そりゃよかった。王子が幸せそうなことは、ベジータ王に言っといてやるよ……そうだ」

 バーダックは急に思い出したように額のバンダナを外す。

「これ、やる」
「これ……」
「オレの大事なモンだ。お前に託す」

 そう言って踵を返した。

「父ちゃんっ!!」

 悟空はバーダックを呼び止める。

「何だ?」

 バーダックは立ち止まり、少しだけ振り返る。

「また……会えるかな?」
「……さあな。オレの罪が消えて、生まれ変わった時かもな」
「……父ちゃん……」
「元気でな、カカロット……」

 バーダックは歩き出した。そして、その姿はだんだんと薄れていく。

「……サンキュ……父ちゃん……」

 悟空がそう呟きバンダナをギュッと握ると、バーダックの姿は完全に消え、悟空の意識も急に遠くなった。



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