novel
□Real intention(the first desire -other story-)
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今日悟空は夕方にはきちんと帰宅し、沸かされた風呂に入り一息ついた。
その間チチはいつもの通りに夕食の準備をしている。
悟空はいつも『美味い美味い』と言って食べてくれる姿を想像するとそれだけで口元が緩む。妻になれたことを嬉しく思う。
だけど、それはただの虚栄だ。自分を誤魔化す為の見栄だ。
悟空とチチにはまだ本当の夫婦という形がない。
夫婦という形に収まってはいるけれど、まだ本当の夫婦にはなっていなかった。
まだ清い仲の二人。夫婦なのに、まだ何もないのだ。
こんなことで夫婦と言えるのだろうか? ただの同居人でしかないのではないだろうか?
いや、下手すると自分は悟空の家政婦でしかない。
そんな自分が悲しかった。
チチはいつも隣の気持ち良さそうな悟空の寝顔を見ながら声を押し殺して嗚咽を漏らす。
それが毎日のように繰り返される。毎日繰り返させる喧嘩のように、それはチチにだけ訪れる日常。
今日も夕食が終わり、後片付けをしていると悟空が声をかけてきた。
「チチ、オラもう寝るな」
「ああ、おやすみ悟空さ」
「おやすみ」
そう言って二人の一日が終わる。
本当ならば、これから新婚の二人の甘い時間が始まってもいいだろうに、この二人にはそんなことは一切ない。
このままこの人の傍にいていいのだろうか? 本当は自分のことなんて好きじゃないのに、約束だからというだけで一緒にいてくれるのだろうか?
そう思うと堪らない。本当は自分の、この潰れそうな思いを吐き出してしまいたくなる。
でも、それだけは言わずにいた。それを口出してしまって、もし悟空がそれを肯定してしまったら……きっと生きる気力など無くなってしまう。それが怖かった。悟空が自分から離れてしまうことが何よりも怖かった。
それくらい、もうチチには悟空しかいなかった。
初めて会ったあの日、自分はこの少年の妻になるのだと心に誓った。
その為にはどんなことも耐えた。
武術の修行も血の滲む思いでやってきた。悟空を追いかけて、強くなる為に。天下一武道会に出る為に。
でも、どんなにチチが悟空を好きでも、悟空がそうではないのなら……ただ虚しいだけではないか。
結婚して2ヶ月、何もない夫婦生活に、チチの心は折れそうになっていた。
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