novel
□Because you are
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「おっ父、これ貰ってけろ」
まだ十歳にも満たない髪の長い少女は山のように身体の大きな父親に封筒を渡した。
「何だべ?」
太い指で器用にその封筒を開けると、「かたたたきけん」と書かれた紙が数枚入っていた。
「父の日だべ」
少女は胸を張って言った。
「おおそうだったか!!」
普段は教科書にも載っている悪人である父親も、こと娘の前にすると普通の父親、それ以上に甘い父親だった。
妻を早くに亡くし、男手一人娘を育ててきた。多少甘いところもあると自負しているが、それでも悪人の自分とは違い、娘は真っ直ぐで心の澄んだ娘に育ったと思う。
「おおチチ、おっ父本当に嬉しいべ」
「よかった」
嬉しそうに笑う娘の身体を抱き上げて肩に乗せてやる。
「でもチチ、こんなに小さなオメエがオラみてえな大男の肩を揉むのは一苦労だべさ。この券はオメエが三国一の婿さ連れてくるまで置いといてもいいだか? そんでその婿に肩揉んで貰うべ」
すると娘は首を傾げて言った。
「さんごくいちのむこってなんだべ?」
「三国一の婿ってのはな、オラよりもずっとずっと強い男がチチの結婚相手になるってことだべ」
「おっ父よりもつええ男っているんだかっ!?」
大袈裟に驚いたように見えるが、本当に驚いている娘の頭を撫でる。
「オラより強い男にしかチチをお嫁にやるつもりはねえだよ。だからチチはしばらく嫁さ行けそうにねえべな。だからこの券の出番は遅くなりそうだべな」
男はそう言うと豪快に笑った。
「やんだおっ父。おら絶対におっ父よりも強い男さ見つけて、早くお嫁さ行ってやるだよ!!」
大きな目を吊り上げて、娘は宣言するように叫んだ。
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