novel

□Because you are
2ページ/3ページ



「悟空さ。これ頼むだよ」
「ん? 何だ?」

 父の日のために家族を伴って牛魔王の城に訪れていた悟空は、牛魔王に古びた一枚の紙を差し出された。

「かたたたきけん?」

 悟空はその紙に書かれていた文字を読む。

「やんだおっ父。そんなのまだ取ってたんだべか?」

 チチは少し赤くなりながら言った。その顔は幼い頃とは少しも変わっていないと牛魔王は思った。

「この間出てきただよ。金属の箱さ入れてたべ、燃えずに残ってただよ」

 チチが悟空を連れて戻ってきた日、牛魔王の城は八卦炉の炎のために燃えてしまった。

 しかし、牛魔王が金属の箱に入れて大事にとっておいた幼き頃のチチからの贈り物は、城の焼け跡から見つかり、そのまま大事に仕舞っておいた。
 それがこの間出てきたのだった。

「何なんだ? これ」
 悟空が問うと、牛魔王はそれまでのいきさつを話し、そして、

「三国一の婿に肩揉んで貰うべ。なぁ悟空さ」

 そう言うと片目を瞑った。

「おし!! オラはチチの亭主だからな。オラじゃねえといけねえ」
 悟空は牛魔王の背後にまわり、その肩を揉み始めた。

「悟空さ……すまねえなぁ」
「何言ってんだよおっちゃん。おっちゃんはオラの父ちゃんでもあるんだからな」

 そう言って肩を揉み続ける悟空に悟天が声をかけてきた。

「おじいちゃんっておとうさんのおとうさんなの? おかあさんのおとうさんなのに? おとうさんとおかあさんってきょうだいだったのっ!?」
 その顔は少し驚いた顔で。

「ハハハ、違うよ悟天。結婚したらその相手のお父さんもお父さんになるんだよ」
 弟に優しく教える悟飯。

「結婚したらおとうさんが増えるの?」
「簡単に言ったらそうなのかな?」
 キョトンとした顔で訊ねてくる悟天に悟飯は苦笑して返す。

「へえ〜!! 何かよくわかんないけど、おもしろいんだね、結婚て!!」

 祖父の膝にピョンっと飛び乗り、足をブラブラとさせる。

「あんれ、悟空さと同じこと言ってるべ」
 チチは悟空をフライパン山へ連れて帰る途中に言った言葉を思い出した。

 天下一武道会が終わり、二人で筋斗雲に乗ってこのフライパン山へ帰ってきた。
 その道中で言った悟空の言葉と同じ。

「そうだったっけ。だっておっちゃんがオラの父ちゃんになるってよ、何か変な気がしたんだもんよ」
 そう言いながら牛魔王の肩を揉む悟空も懐かしげに話す。

「でもさ、嬉しかったな。オラ家族はじいちゃんしかいなかったから、父ちゃんが出来るって嬉しかった。それも亀仙人のじっちゃんの弟子のおっちゃんだもんな」
「悟空さ……オラも兄弟子の悟飯さんの孫のオメエがチチの婿さなってくれるってんで、それは嬉しかっただべさ」

 目を細めて、それに背中を丸めて言う牛魔王が酷く年老いて見えた。

 硬くなった肩がそれまでの牛魔王の苦労を意味する。
 
 昔は悪人として恐れられてはいたが、亀仙人との再会を機に改心してからは村人にも慕われる人物にもなった。
 
 それからは娘夫婦と村人のために尽力し、その生活の全てを捧げてきたと言っても過言ではない。

「……すまねえなぁ、おっちゃん。オラのせいで苦労かけちまって……」

 珍しく肩を落とす悟空に、牛魔王は苦笑した。

「何言ってんだべ悟空さ。オメエはオラの大事な息子だべ。苦労だなんて思ったことねえべ」
「……おっちゃん」

 その様子をチチも悟飯も微笑みながら見ていた。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ