novel

□Because you are
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 すると悟飯は悟空に歩み寄り、手を差し出した。

「お父さん、その券、僕に下さい」
「何でだ?」
「僕がお父さんの肩を揉みますよ」

 そう言って悟飯は悟空の肩を揉んだ。

「お、こりゃ気持ちいいな!!」

 牛魔王の肩を悟空が揉み、悟空の肩を悟飯が揉む。

「あっ!! 兄ちゃんズルイッ!!」

 悟天がぼくもぼくもと騒ぎ出した。

「じゃあ悟天はチチの肩を揉んでやれ」
「おかあさんの?」

 おかあさんはおかあさんだよ? と訴えてくる悟天に悟空は言った。

「母ちゃんはな、オラがいねえときにオラの代わりもしてくれてたろ? なら母ちゃんは父親代わりってヤツだ」
「……うん」
 悟空は悟天の頭を撫でた。

「それにチチだもんな!?」

 そう言ってニッと笑った。

「ハハハッ、そりゃ違いねえべ!! チチの日だべさ!!」
 牛魔王は豪快に笑えば、

「ホントですね!!」
 悟飯が笑う。

 一瞬キョトンとしていた悟天も、

「ホントだね!! おかあさんの日だ!!」
 と満面の笑みで言った。
 
「もうっ、悟空さったら、またおかしなこと言って」
 チチも少し頬を赤らめて眉根を寄せるけれど、どこか幸せそうで。
 
「はい、おかあさん、ぼくがお肩揉むからね」
「ありがと。悟天ちゃん」

 チチの肩を悟天が揉む。

 牛魔王は思った。心の底から幸せだと。

 悪行の限りを尽くし、人々にも恐れられてきた。

 娘以外に心を許せる者もいなかった。

 しかし、あの純真無垢な少年に出会い、師匠に再会し、全てが変わったと思えた。

 あの時の出会いが今に通じている。

 あの時の少年は娘婿になり、二人の孫にも恵まれた。

 許された。そう思った。

「……幸せだべな」

 思わず口をついて出ていた。

「……ああ、おっちゃんのお陰だ」
「オラの?」

 牛魔王は振り向く。

「ああ。だってさ、おっちゃんがいなけりゃチチもいなかったろ? だから全部おっちゃんのお陰だ」

 悟空の目はいつもの悟空の目よりも大人びて見えた。

「……そうだか……そう言ってくれると嬉しいべ。チチが娘なのも、悟空が息子なのも、悟飯と悟天が孫なのも、本当に嬉しいことだべな」

 牛魔王はそう言って目を閉じた。
 そうしないと、溢れてきそうな涙を止めることが出来そうにない。

「……おっ父……本当にありがとな。おらもおっ父がおっ父でよかったべ」
「チチ……」

 そう言う娘の顔はもうあのときの幼い娘ではなかった。

 あの時の幼い娘は、自分よりもはるかに強い男を連れてきた。
 三国一の男を。

 あの時『おっ父よりも強い男を見つける』と豪語した娘は、見事にそれを叶えた。

 娘は愛する人と出会い、共に生きると誓い、そして子を成し、何度死に別れてもこうしてまた共にある。

 辛くて何度か泣き言を言ったけれど、結局のところ全てを受け入れ、許す強い妻になっていたのだ。

 父娘、たった二人の家族だったのに、今は5人家族だ。


「じゃあね、兄ちゃんとビーデルお姉ちゃんがけっこんしたら、サタンさんが兄ちゃんのおとうさんになるの?」
「悟天っ!!」
 悟天の無邪気な発言に悟飯が真っ赤な顔で叫ぶと、チチと悟空が横槍を入れた。

「そうだべ。サタンさんは兄ちゃんのおっ父になるんだべ」
「お、サタンも悟飯の父ちゃんか!!」
「お母さんっ!! お父さんもっ!!」
「こりゃ武道家一家の誕生だべさ!!」
「おじいちゃんまでっ!!」

 悟飯が真っ赤になって再び叫ぶ。

 その様子に家族全員が笑った。

 

 家族5人で笑い合える幸せ。


 そして、またひとつふたつと家族が増えていって、きっとまた笑い声が増える。

 ありがとう。

 この家族に―。

 ありがとう。


 end
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