novel

□Inserted light
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この子の成長を、

自分は見てやれることが出来るのだろうか……。


 精神と時の部屋。

 セルとの闘いに備えて、孫悟空・悟飯親子はここに篭もって修行をしていた。

 もうじきここでの一年、外においてはたった一日しか経ってはいないのだが、修行も終わる。

「悟飯、もういいだろ。そろそろ出るか」
「はい、お父さん」

 元々黒髪、黒い瞳であったこの親子も、今は金髪に翡翠色の双眸。

 血反吐が出そうな修行の末、普段から超サイヤ人でいることが出来るようになった。

「あれ? やっぱオメエデカくなってんな?」
「そう?」
 悟飯は目を丸くしている父を見上げる。

 今まで考えたこともなかったが、そう言われれば父を見上げる角度が違っているように思う。

「そりゃそっか。ここで一年近く修行したんだかんな」

 悟空はニッと笑った。

「そうだよね。お母さんびっくりするかな?」
「びっくりすっぞ。昨日とは全然違うんだぞ」

 悟飯はきっと驚くだろう母の姿を思い浮かべた。

 でも……。

「……この格好、怒られちゃうんじゃない?」
「へ?」
「お父さん、忘れてたの?」

 素っ頓狂な声を出した父に、悟飯は不安そうに眉根を寄せた。

「どうするの? お母さんすっごく怒っちゃうよ」
「どうすっかなぁ……?」

 とにかく真面目で金髪など不良と言う母。

 父が超サイヤ人の姿のまま帰宅などしたら、それこそ飯抜きを言い渡されるほどに激昂する。

「お母さん超サイヤ人嫌いだもんね。このまま帰ると絶対ご飯抜きにされちゃうよ。一年振りにお母さんの美味しいご飯食べられると思ったのに……そんなの嫌だなぁ……」
「そっだなぁ……そりゃオラも困んな……」

 悟空は悟飯以上に眉根を寄せた。
 
 悟空の場合はそれだけでは済まない。飯抜きだけならまだしも、床を別けられる、という罰も待っているだろう。

「でもお母さん、どうしてあんなに怒るのかな? 不良みたいって理由だけなのかな?」
「あ、そ、そっだな……」

 腕組みして呟く悟飯に悟空は曖昧に返事をし苦笑する。

 不良みたいだから。理由はそれだけではない。

 理由は悟空本人にある。

 超サイヤ人になると自制が利かなくなる。
 特に夜。夫婦だけの時間になるとその自制は特に利かなくなるらしく、その度に悟空はチチに無理をさせて、挙句泣かせる結果になってしまう。

 超サイヤ人にならなければいいだけの話なのだが、どうにもコントロールが利かないことがあり、その場合超サイヤ人のまま夜を明かすということになってしまい、チチはその度に苦労を強いられることになるのだった。

 そんなこと子供に言えるはずもなく、ただ渇いた笑いをするしかなかった。

 確かに常識というものが多少欠落している悟空ではあっても、そのようなことを人前、特に子供の前では言ってはいけないことくらいは知っている。というより、チチに口酸っぱく言われてきたからなのだが。

 そんな父の複雑な表情に気付いたのだろう。悟飯はキョトンとした顔で悟空を見上げた。

「どうしたの? お父さん」
「へ? いや、何でもねえぞ」

 悟飯を見下ろし、悟空は誤魔化すように笑い、その髪をクシャクシャっと撫でた。

 擽ったそうに笑う悟飯は超サイヤ人であり悟空そっくりだ。

 なのにその表情の一つ一つにチチの面影を感じる。

 まだ泣き虫だった頃の泣き顔。寝顔。そして笑った顔。

 こんなにも自分に似ているのに、その仕草の一つ一つがチチのそれと同じで。
 それがとても嬉しいことなのだと感じた。

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