novel

□Inserted light
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「オメエはホント母さんに似てるな」
「え? 僕ってお父さん似って言われるよ?」

 悟飯はキョトンとした顔で悟空を見上げる。

 母にも祖父にも、ブルマやクリリンや武天老師にも、皆に父親似だと言われる。
 特に今は超サイヤ人に変じているのだから、余計に似ていないはずなのに。

 そう言えば母に似ているとは言われたことなどない。

 父以外には。

 悟空は太陽のような笑顔で更に悟飯の髪を撫でる。

「そうだけどよ、やっぱ母さんにも似てるんだ。笑った顔とか泣いた顔とか、ホントに似てる」
「そうなの?」
 キョトンと見上げるその顔も、チチに似ていると悟空は思う。

「ああ、そうだぞ。赤ん坊のオメエの寝顔を見てるとさ、やっぱ母さんに似てるなって思ったぞ」

 生まれたばかりの頃は本当に小さくて、抱いたら潰してしまうんじゃないかと思うほど頼りなさげだった。
 こんなに小さな赤ん坊が全身を使って大きな声で泣き手足をバタつかせて、そしてかつて悟空にもあった尻尾を大きく動かして。
 スヤスヤと眠るその顔はチチのそれとよく似ていて、日増しに自分に似てくるのにこんなところにチチの面影を見つけて嬉しかったことも昨日のことのように思い出せる。

「オメエが生まれたときさ、こんなにちっちゃくてさ、そんで尻尾バタバタさせてさ」

 悟空は悟飯が生まれたばかりの頃の大きさを手で作り、悟飯に説明する。

「こんなにちっさかったのによ……それが今じゃこんなにデッカくなっちまって……」
 目を細めて、感慨深く呟く。

 いつだって戦うことばかりで家族のことを省みなかった。
 気が付けば息子はこんなにも大きくなって、その小さな身体に秘めている力はもう自分の力など凌駕してしまっている。

 目の前に強いヤツが現れるといつもワクワクした。
 悪いヤツなら怒りが勝るけど、天下一武道会などで手合わせしたような強豪と出会うことにはただワクワクして戦うのが楽しみで。

 今、目の前にいる強いヤツ。今まで以上に強いヤツかも知れないヤツ。それが自分の息子なのだ。 

 戦うことが好きな一人の男としては追い抜かれたようで悔しい気持ちもある。でも、父親としてはこんなに嬉しいことはない。
 やはり、嬉しさの方が勝ってる。

 その息子がこの地球を守る存在なのだ。

「オメエはもっとデッカくなるんだろうなぁ……そのうち、オラよりデッカくなんぞ?」
「お父さんより?」
「ああそうだぞ。父さんがオメエくれえのときはもっとチビだったんだ。だからオメエのがデッカくなるんじゃねえか?」

 悟空はかつての自分を思い出す。

 まだ幼かったチチと初めて会ったとき、あのときの悟空はチチよりも小さかった。

 そしてあのとき、チチと一生を変えるような約束を知らずにとはいえ交わした。

 そのお陰で、今ここにこうして息子と共にいる。

「お父さんより大きくなるの? 何か変な感じだね」
「そっか? 悟飯は絶対に父さんよりデッカくなっぞ」

 悟飯が成長し、自分を超えたそのとき、自分はそこにいることが出来るのだろうか。

 そんな考えが頭を過ぎる。

 悟空は胸中で頭を振り、そんな考えを振り払う。

 いつの日か、この息子が成長し、そして恋をし、結婚をして自分の家族を作る。

 家族で笑い合っているこの息子の姿を見てやりたい。

「悟飯はどんな大人になるんかなぁ……?」
「僕、お父さんみたいになりたい」
「オラ?」
「うん!!」

 悟飯は嬉々として続ける。

「強くてかっこよくて、それで優しいお父さんみたいになりたい!!」

 悟空は鼻の奥がツンとするのを感じた。

 今まで幾度もほったらかしにしてしまったのに、それでも自分のようになりたいと言ってくれるのか。

 ここまで薄情な親なのに、こんなにも慕って尊敬してくれる。
 
 この子は、自分には勿体無いくらいの息子だ。

「……でもさ、オラみてえになったら、オメエの嫁に『働かねえ』ってどやされっぞ?」

 泣きそうになるのを誤魔化すためにおどけて言う。

「それは大丈夫だよ。僕、学者になるもん!!」
「そっか……オメエは学者になるんだったな?」
「うん!!」
「強くてかっこよくて、優しい学者か……オメエならなれっぞ」
「うん!!」

 チチの笑顔とよく似た笑顔で答える悟飯の頭を撫でる。

「じゃあ外出るか!!」
「はいっ!!」
 
 この息子の将来のためにも、この戦いは勝たねばならない。

 凄く矛盾しているが、息子の将来の為に息子の力を借りねばならなくとも。

 例え、この命が果てようとも―。

 
 この息子が成長し、恋をし、家族を作ったとき。

 自分は傍にいてやることなど出来ないかも知れない。

 この扉の向こうに迫る恐怖が消え、この子の将来が明るいのであれば、この身の犠牲など、何でもないではないか。

 悟空は逞しくなった息子の背中を押し、その扉を開けた。

 
 もうすぐ、この小さな子を戦士として扱わなければならなくなる。

 でもそのときまでは、この息子の父親でいたい。

 親子として、それまでの時を過ごしたい。

 
 悟空と悟飯は差し込まれる光を浴びて、その扉の外へと踏み出した。

 この光のように、明るい未来が待っていると信じて―。


 end
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