novel

□Man&Woman
1ページ/3ページ


 とにかくチチは不機嫌だった。

 悟空が宇宙から戻り、やっと家族三人で静かに生活できると思っていたのに、三年後にやってくるという人造人間とやらを撃退すべく、あのピッコロ大魔王と修行がしたいと悟空が言い出したのだ。

 冗談じゃない!!

 チチは反対した。

 何せピッコロはかつて自分の目の前で悟空を殺そうとしたし、それから五年後、不可抗力とは言え悟空を殺した後、息子の悟飯までさらって行ってしまった。と、チチは思っている。

 結果はどうあれ悟空を殺そうとしたことも殺したことも悟飯をさらったことも間違いない。

 今はもうそんなことはしないとしても、チチにはまだわだかまっているものがあった。

 しかし、悟空と悟飯の必死な頼み込みの最中、不可抗力で悟空によって大怪我をさせられてしまった。
 そんなこともあってかチチはもう何も言うまいと、許すしかなかった。

 怪我のことは悟空の誠意もあってもう許してはいるのだが、その後が悪かった。

 時折悟空は超サイヤ人というものになった。

 ただでさえ悟空は地球人ではなく異星人であったのに、その異星人であり戦闘民族であるサイヤ人を超えた超サイヤ人というものになってしまった。

 そのことを息子の悟飯は嬉々として語る。

『お父さん、すごいんだよ!! 超サイヤ人になったら、今の何倍も強くなるんだよ!!』

 何せ強くて優しい父が自慢の悟飯にとっては超サイヤ人になれる悟空が更に自慢の父となってしまったのだった。

『そうだべか』

 そんな悟飯にチチはいつも微笑んで返す。すると悟飯は更に悟空がどんなに強くなったのか嬉々として語るのだ。

 しかしチチにはそんなことはどうでもよかった。

 そんなものになれたとしても何の役にもならない。飯の種にもなりはしない。
 それにこれから三年は修行三昧の生活も許してしまったようなものだ。
 悟飯も一緒だということは、その間は悟飯の勉強も疎かになってしまう。そのことは悟空にとってはさほど重要ではないらしい。

 確かに地球が無くなると悟飯の将来なんかあったものじゃないということはわかってはいるが、その闘いに悟飯を関わらせなくてもいいではないか。
 まだ幼い我が子なのに悟空は悟飯を戦士として扱おうとしているのだ。
 
 本当に強くなることと闘うことが絡むとこちらがどれほど反対しても我を通してしまうところがある。

 そんな男だと理解した上で結婚した、というより、押しかけ女房のような形で結婚を迫ったのは自分だ。

 あの頃はただ悟空が好きで、どうしても幼い頃に交わした結婚の約束を遂げようと必死だった。
 それだけ悟空のことが好きだった。

 その気持ちは今でも褪せてなどいない。それどころか彼を愛するという気持ちは日増しに増している。
 離れていた時間も永いから余計だ。

 だけど現実問題、修行だけでは生活できない。父の財産もいつか底をつく。

 どうにかしなければ……と思うのだが、一通り怒った後、絆されるのか諦めの境地なのか、すぐに許してしまう自分がいることも否めない。

 その上、この三年の間に悟空が心臓病になってしまうとは。

 それを『未来から来た少年』に教えて貰ったのだと、悟空はあっけらかんと話す。

 その『未来での世界』では自分は心臓病で死に、三年後に訪れるであろう人造人間とやらとは戦えないのだと悟空は残念そうに話した。
 そうならないためにこの時代にはない特効薬を『未来から来た少年』に貰ったらしいが……。

 だから大丈夫だと、何事もなかったように話す悟空にチチは少し呆れたが、それでもこれから訪れる脅威と心臓病という不安材料に対する恐れを抱いていた。

 ここまで自分を心配させているということに悟空は気付いているのだろうか。

 いつもいつも不安で、心配の種が尽きない夫。

 好きだからこそ不安なのだと、悟空はきっと気付いてなどいないのだろう。
 

 しかしながら修行の相手があのピッコロとは。
 
 ここでもしなくてもいい心配の種がまた増えた。

 夫を殺そうとし、息子をさらった悪いヤツ。そうでしかない。

 ……はすだった。

 ピッコロが以前とは何か違うということはチチにも何となくわかった。

 引退したとはいえ天下一武道会の本戦にまで出場できるほどの武道家であるチチだ。

 彼の変化には気が付いていた。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ