novel

□遺せし愛しきもの
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「ではアンニン様、行って参りますじゃ。孫の様子を見たらすぐに戻って参りますぞ」
「いいんだって。ゆっくりしてきな。きっといいことがあるよ」
「?」

 悟飯は怪訝に思いながら五行山を後にした。


 このパオズ山に戻ってくるのは死んで以来だった。

 特例としてこの世に霊体という形で帰ることを許された悟飯は敢えて孫を拾った場所に降りた。

 そして、あの頃のことを思い返す。

 まだ赤ん坊の頃に拾った孫。拾った当初は乱暴者で手に負えないほどだった。

 しかし、崖から落ちて頭を打って以来、それまでの性格が嘘のようにいい子になった。

 そんな孫を遺して死ぬことは心残りだったが、縁あってかつての自分の師が孫の師となり、弟弟子の娘が孫に嫁いだ。

「本当に縁とは不思議なものじゃの」

 悟飯は背中を丸めてパオズ山のかつての自分の家に向かった。

 この道は孫をこの背に背負って歩いた道だ。
 
 そして孫と一緒に歩いた道。

 その孫は今、立派に成長し、妻までいる身となった。

 少し感傷に浸りながら、この道を歩く。

 この世の空を見るのは久しぶりだった。

 こんなにも空とは青いものだっただろうか。

 悟飯は空を見上げ、この世の全てを堪能し、かつて自分たちが住んでいた家を目指した。

 
 そこには誰もいないことは何となくわかっていたのだが、それでも足を向けていた。

 一応他人に出会わないようにする。
 今この世に戻っているが、これは霊体としてだった。身体は残して貰えてはいるが、以前に孫に会うために一日だけこの世に戻れるという権利は使ってしまった。
 今回はお盆ではないが、お盆にこの世に戻ってくる死んだ者たちと同じように霊体として戻って来ている。
 なので、よほどの霊感の持ち主でないと悟飯の姿を見ることが出来ない。
 このような田舎にそのような人物がいるとは思えないが、それでも一応は用心する。
 

 誰に会うこともなく自分の家に着いた。
 元より山奥なので他人に会うことなど滅多にないのだが。

 家の中に入ってみると思いのほか片付いており、埃一つなかった。

「悟空たちがここに住んでおるのかの?」

 そう思うが生活の匂いがしない。

「はて?」

 悟飯は不思議に思いながらも自分の家を後にした。

 しばらく行ったところに白い小さなカプセルハウスがあった。

 煙突から煙が出ており、明らかに生活の匂いがあった。

「こんなところに家などあったかの?」

 誰かが越してきたのだろうか?しかし、このような山奥に?

 窓から中を窺い見る。

 すると娘が一人、忙しなく動いていた。

 その娘は無駄のない動きで家事を片付けていく。
 悟飯の目からみても相当いい動きだった。

 その娘の顔が見えたとき、その顔に見覚えがあった。

「あれは……悟空の嫁の……」

 一度八卦炉で会った娘。それは武天老師の下で修行をしていた頃の弟弟子である牛魔王の娘で悟空の妻だという娘、チチだった。

「ということは……ここは悟空の家か?」

 ここに悟空が住んでいる。悟飯は孫に会える嬉しさで一杯になった。


 すると、巨体を揺らしながら覚えのある人物が現れた。

 それは牛魔王だった。

 孫の義父である牛魔王が娘夫婦の元に遊びに来ていたようだ。
 これは何と言う偶然か。それとも……。

「おっ父。そろそろご飯だべ」
「おう。えらくご馳走でねえか?」

 見れば食卓には相当の量のご馳走。

 悟空もそうだが牛魔王も相当食べるのだろう。ざっと十人前以上はあるだろうか。
 それを娘は手際良く準備していく。

 悟飯は先程も思ったことだが、この娘の動きの良さに感心する。

「悟空さのじいさまが戻ってるかも知んねえべ?」
「んだ。悟飯さんの分もだべな」

 悟飯は自分の名を呼ばれてドキリとした。

 自分が戻ってくるとはどういうことだ?

 悟飯は親娘の会話に耳を傾けた。

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