駄文部屋

□True death
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 母が亡くなった。

 年齢よりも若く見える母だったけれど、寄る年波には勝てなかった。

 80も超え、それでも倒れる直前まで父の為に大量の食事を作っていた。

 実家の隣に住んでいる僕は突然母の気の乱れを感じ、妻と娘と共に実家に行くと倒れている母を発見した。

 すぐに病院へ連れて行き、娘を父の元へと知らせに行かせた。

 病院で母はもう永くないと聞かされ、僕と妻、飛んできた弟は絶句するしかなかった。

 瞬間移動で駆けつけた父は、普段の飄々とした父とは打って変わって取り乱していた。

 その父の様子に僕たちは更に絶句した。こんな父はただの一度も見たことはない。

 自分の死すら『仕方がない』と受け入れてしまうような父なのに、母の命が残り僅かと知った途端、今までになかったほど取り乱したのだ。

 子供のように『嫌だ嫌だ』と叫び、『そんなの許さねえ』と泣いた。

 父の涙など見たことがなかった。

 父が泣くようなことなど、今までになかった。

 自分が死ぬのは仕方がない。でも母が死ぬのは何よりも嫌なのだと、落ち着きを取り戻し、母の寝ているベッドの横を陣取りその白い手を握る父がそう呟いたのを聞いた。

 自分が死んで母と引き離されることは我慢できても、母が死んで引き離させることは我慢できないのだと。

 父は何よりも母に置いて逝かれるのを恐れていた。

 母がいないと父という存在は意味を成さないのだと、父は自覚していたらしい。

 そして、母の死の間際まで、母の傍から離れようとしなかった。いや、死んだ後も、母が荼毘に付されるまで、父は母の元を離れなかった。


 寿命で死んだ母をドラゴンボールで生き返らせる事はできない。

 例え生き返らせる事が可能であったとしても、きっと母は生き返る事を拒んだだろう。

 もし使って、すぐにドラゴンボールを必要とする非常事態が起こったらどうするのだと。

 母とはそういう人なのだ。



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