tamama said.

□逃げ水、如何
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近づく程に、手が届かなくなってしまうから・・・手を伸ばしたくなる。

留まって、振り向いてほしい。



――呼び水、来い来い――




「軍曹さんとラブラブになりたいですぅ」
いつものように茶化しながら本心をぶつける。一縷の期待を乗せて。

「はぁ〜・・ホモなの?君は」

パチン・・
理解するより先に何かが心の中で切れた音を聞いた。
うっとおしそうに眉根をひそめた軍曹さんの顔が忘れられない。

「ですよね〜!やだなぁ、冗談ですよ冗談♪」

おどけた口調は果たして貴方に通じただろうか。
頭の後ろでホロホロと泣きながら、笑顔を凍らせた。
その場さえ凌げればいい。

「あ、おやつの時間ですぅ〜今日はもう帰りますね」
ケロロの顔を見ないように素早く超空間に隠れた。
こんな風に言われるのは今に始まった事じゃないけれど、タママはもう限界だった。

「ふっ・・・うぅ・・・」
泣かないつもりだったのに、唇の震えが止まらない。やっぱり、選択間違ったかなぁ。

タママはケロン人の中でも珍しい未分化だ。
何百万人に一人の割合だがたまにこういったどっちつかずの個体が誕生する。
しかし大体は第二次成長期にあわせて性別が確定する。

だが、タママは違った。

医者によればある強い想いがある場合はそのまま未分化として成長するケースがあるという。その話を聞いた時、心臓が跳ねた。
思い当たる節があったからだ。
あの緑の人…

自分はどちらになるのだろう。
子供の頃は違いがわからないまま、只、漠然と考えていた。
どちらでもかまわない。
まぁ、男の方が気楽でいいけど。
その位軽いものだった。

女性としてなら、人に褒められるルックスを利用し続ければよい。
男性としてならば、腕っ節の強さを伸ばせば
よい。
どちらにしても、服従させようとする奴は屈服させるまでだ。それで正しい。

「簡単に諦めるな。死に場所が欲しいなら我が隊に来い。絶対死なせないからな」

出会ってしまった。
あの人の傍にいたい。もっと知りたい。手足になりたい。
貴方を守りたい。

力がほしい。

タママは男になれるように願った。
そうすればあの人の盾になれるから。
傷ついた貴方が帰ってくるのを只じっと願っているのは自分の性にあわない。
守られる側でなく、守る側になりたい。
しかしタママの体は願い空しく、いつまでたっても未分化のままだった。

だから体を鍛えた。入隊後は男と偽って見破られぬようにひっそりと注意深く可愛いキャラとしてやってきた。

後輩たちにはナメられないように努めて男らしく、先輩には余計な反感を買わないように。

なのに、・・・なのに全否定された気分だった。
最初から女として生きていれば良かったのかな?
無意識にじんわりと涙があふれてくる。
貴方の傍を夢見たのが間違いだったんだ。

おやつの山でなくタママはソファに横になっていた。
もう忘れたい。
泣きつかれて腫れぼったい瞼をゆっくりと閉じた。
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