SS

□夏芝居
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ペコポンの夏は灼熱地獄だ。
遠い異星から来た侵略者たちや観光客も例外ない。

いつの頃からか暑さを乗り越えるための活力剤的な意味で宇宙人街でもペコポンの風習である祭りを取り入れていた。

うかれて暑さを吹き飛ばそうというのである。

そんな夏の風物詩にケロロが参加しないわけがない。小隊全員を召集し、職場の停滞ムードを盛り上げようという魂胆もあった。

日が傾き、昼間に比べ幾段か涼しくなってきた頃全員が顔を揃えた。

アンチバリアをチェックして、祭りの会場へと向かう。

時々、ご近所づきあいをしている宇宙人の皆さんとも挨拶をしながらケロロはタママの歩幅にあわせて歩いていた。
夜の気配のせいか、なんだかタママが色っぽくみえる。

ちらほら屋台が見えてきた。
「僕は宇宙カキ氷食べたいですぅ!」タママが駆け出そうとするのをケロロが首根っこを捕まえる。

「タママ〜はしゃぎすぎ!ダミだよーどこそこ行っちゃ。人が多いんだからはぐれちゃうよ。」

「じゃあ、軍曹さんも一緒に行きましょうよ。僕もう待てないですぅ」

タママはぐいぐいとケロロをつれて一直線に屋台に向かった。

もう、子供なんだから。と思いながらも口元はニヤケてしょうがない。

一方、少し離れたところで二人が戻ってくるのを待っている大人組三人衆。

「そういえばギロロ先輩。カラオケ大会に出場するんだってなぁ〜」
のんびりした声でクルルが言う。

「え!本当?ドロロ君。なんで教えてくれなかったの」
全く初耳だったであろうドロロは大げさに驚き、そして落胆した。

「あ、あぁ・・・。今年の賞品が特注のスナイパーライフルだったものでな。まぁ自信はないんだが」

明後日の方向を見ながらギロロは答える。

「クークックック。その為の二人分の荷物って事かぁ?」

クルルは意味深にギロロの手荷物を冷やかした。

「遅くなってゴメン、ゴメン。じゃ行こっか」
ケロロとタママは再び合流し、メイン会場へ急いだ。

会場ではすでにカラオケ大会が始まっていた。

養老星人の幸ちゃんがその独特のこぶしで斜乱たまの”好いは毛”を熱唱し、爆笑の渦に巻き込んでいた。
司会のダソヌマソが「ぶっちゃ毛〜」を連発している。

あまりの面白さについ真剣に見入って”なるほど〜ああすれば笑いがとれるでありますか”と捩れるほど笑いながら芸を盗もうとするケロロ。

その傍に居るはずのタママが居ないことに気づいたのは次の参加者の紹介があった頃だった。

「ゲロォ!!!タッ、タママはどこいったか知らない?!」
慌ててあたりを見渡すがそれらしき人影がない。

「さぁなー。ギロロ先輩ならあそこだけどよぉ」
クルルが指し示した舞台の袖でギロロはエントリー受付をしてる。

「拙者も気がつかなかったでござる!タママ君〜!」
ドロロは青い顔を更に青くして懸命に探すが見当たらない。

「あれほど口すっぱく逸れるからって言ったのにぃ・・・タママ、どこなのぉ・・・」
既に弱気になって涙目のケロロは小さい体をジャンプさせながら必死でタママの姿を捕らえようとするが、姿はなかった。

どうしよう、我輩のせいだ。
タママ、可愛いから犯罪に巻き込まれてたりして・・・適性宇宙人に捕まっていたらどうしよう。

悪い考えばかりが浮かんでしょうがない。
夏だというのに寒気すら感じてしまう。

だがこの人出だ。
ごったがえす会場で人一人を自力で見つけるのは困難である。
「ドロロ、クルル。主催者側に迷子案内してもらうでありますよ!」

とは言ったものの、中々前に進まない。
と、その時”カン”という澄み切った音がした。
「あ!ギロロ君だ」
その声に思わず舞台を見るとマイクの前に居るギロロの後ろから扇で顔を書くした着物姿の女性が静々とイントロにあわせて出てきた。
その次の瞬間、息を呑んだ。ケロロたちとは反対に会場はどよめいた。
「・・・タママ」

ギロロが格好つけながら目を閉じ歌いだす。
その後ろで艶やかにタママがクルクルと舞を踊る。

その妖しい流し目も、蜜を孕んだような口元も、匂いたつような儚い仕草も、あまりに蠱惑的だった。

指の先まで女性そのもの。
いや、、女性以上の女性の登場に人々は度肝を抜かれていた。

一瞬、切なげな表情を浮かべるタママに思わずケロロは喉を鳴らした。

♪恋のからくり 夢芝居
台詞ひとつ 忘れもしない
誰のすじがき 花舞台
行く先の 影は見えない

男と女 あやつりつられ
細い絆の 糸引き引かれ
稽古不足を 幕は待たない
恋はいつでも 初舞台ぃいいい

会場に居た者たちが足を止め、タママの舞に見入っていた。ざわめきが静まり、ただギロロとタママの夏舞台だけが、別世界へ引き込んだ。


♪恋は怪しい 夢芝居
たぎる思い おさえられない
化粧衣装の 花舞台
垣間見る 素顔可愛い
男と女 あやつりつられ
心の鏡 覗き覗かれ
こなしきれない 涙と笑い

恋はいつでもぉ 初舞台〜ぃいいい

男と女 あやつりつられ
対のあげはの 誘い誘われ
心はらはら 舞う夢芝居
恋はいつでも 初舞台

踊り終えたタママは伏目がちだった双眸をぱっちりとさせ、いたずらした後の子供の様に満足げに笑った。

その途端、魔法が解けたかのように拍手喝さいと賞賛の嵐がおき、舞台へおひねりが投げ込まれた。
そして舞台下へ観客が駆け寄り、お札をタママに渡そうとするのだった。

それを一つ一つ手に取り、タママは胸元に差し込んでゆく。

ケロロはその様子をぼーっと見つめていた。


優勝はギロロとタママだった。
舞台裏から女形の擬態を解いたタママがケロロの元に駆け寄る。

「ぐんそぉさーん!」
そんなタママに普段お世辞を言わないクルルも皮肉たっぷりに賞賛する。
「やるじゃねぇの、ガキぃ」
「本当!すっごい綺麗だったよタママ君!!」

だがケロロだけは何も言わずそっぽを向いている。

「?軍曹さん?」
なんで褒めてくれないのかなと訝しんで、声をかけるのを躊躇うタママ。

「・・・分かって・・・ぃであります」
その声は、雑音で掻き消されてしまう。
「ぐんそ・・・」
「タママは分かっていない!」

ケロロが大声を張り上げ、タママは体を振るわせた。
「なんでだよ・・・。なんであんな事したの?」
「すまん、俺が頼んだんだ」

言葉を失ったタママに代わってギロロが間に入った。

だが、その声で我に返ったタママは憤慨した面持ちでケロロをにらむ。

「わからないですぅ!何がいけないんですかぁ!」
その威勢の良いトーンと裏腹に、うっすら涙を浮かべながら。

遠くで祭囃子が聞こえるが、小隊の面々だけは無言だった。
「・・・もう、いいです。」
苛々した口調で、タママはドロロの手をとり逃げ出した。

「いいのか、ケロロ?」
「おっさん。言いたい事あるなら言わないとぉ、ガキに分かるかよぉ」

流石でありますなぁ、とケロロは強張っていた表情を緩めた。


「いいの?」
「・・・ドロロ先輩。ごめんなさい。巻き込んでしまって」
「構わないでござるよ。」

そんな風に優しく言うから。
ちょっぴり苦しくなるのを抑えて、タママは微笑んだ。

「軍曹さん、なんで怒ったんだろう。僕、いけないことしちゃったんでしょうか?」

ドロロは手にしていた綿菓子をタママに差し出しながら頭をふった。

「逆だよ、タママ君。隊長殿は・・・」
そこで言葉を切った。よそう、これは自分が言うべき事じゃない。

ドロロはタママの頭を子供にするように撫でると「さぁ、帰るでござるよ」と言った。


日向家に帰ると、既にギロロが庭で待機していた。

「タママ、すまなかったな。あいつの事は許してやってくれないか?あいつは」
「ギロロ君!」
「ああ・・・タママ、ケロロが呼んでいたぞ」

二人に促され、渋々ケロロの部屋の扉を空ける。

背中を向けたケロロがそこにいた。

いつもは喜んで二人だけになるのに気まずい。
何を話そうか迷っているとケロロが口を開いた。

「ここんとこ、日向家の周辺でこんな男が徘徊してたの知ってた?」

そういって後ろを向いたまま差し出したのは見覚えのない男の宇宙人の写真だった。

「タママにソーサーに乗らないように言ったのも、逸れないように注意したのもね。守りたかったからなんでありますよ。」

そんな事、露ほど知らなかった。

「軍曹さん」

「なんつって、他の男にあんな艶姿見せたくなかっただけだったりして。・・・もう、他の奴に見せたりなんかしたら駄目でありますよ。我輩、おかしくなっちゃうからね」

いまだに後ろを向いたまま、途切れ途切れに語るケロロはきっと照れているんだろう。
タママは胸が熱くなるのを感じた。
アツくなりすぎて、僕もおかしくなっちゃう。

「軍曹さん!」
「わぁ!」

ケロロに飛びつくと手で眼を覆った。
「目、閉じててくださいですぅ」
甘い声で懇願する。

「・・・わかったであります」
素直に、年下で部下の言うことをきいた。

「目、あけて」
耳元にかかる吐息に、顔が赤くなるのを感じる。目をあけると新作のガンプラが用意されていた。

「なんで?」
「僕、軍曹さんを喜ばせたくて。それであんな格好してお金を稼いでたんですぅ。でも、もうあんな格好しないですぅ。・・・多分」

「なぁに?今の多分はぁ」
聞き捨てならないとガンプラを胸に抱きながらタママをにらむケロロ。
その様子がまるで説得力がないのでタママは噴き出した。

「・・・我輩のためなら、いつでも構わないでありますよ?あの歌詞みたいに・・・たぎらせられてしまってるでありますから。」


男と女、あやつりつられ・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あとがき。
長っ!また端折ったのに長くなりました。
もしかしたら既出かもしれませんが、タママということで”下町の玉三郎”なのです。どうしてもコレ、やりたかったの。

軍曹さんはタママが見てないところで守ってくれているといいなぁと思います。
ストーカーさんも実は退治してくれちゃってたら、惚れますね。
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