keroro said.

□空蝉の衣
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しまったと思った時には遅かった。
泣かせてしまったと思ったが、一瞬だけ本心を見せてぎこちなく装うタママの表情を見逃さなかった。

嘘つくの、下手なんだから。

見なかったフリして付き合った。

だが心には苦いものが広がっていた。傷つけたくないのに、傷つけてしまう。

タママが自分に好きと言ったのは出会って間もない頃だった。

あまりに美しすぎる少年の本性は実に男らしく一緒にいて楽だった。
初顔合せの時、近くでみたタママにあの時の調査以前にどこかで出会った事があるようなデジャブを覚えた。

ずっと昔からそこにいたような気がしてた。

自分で判をおしておきながら小隊でやっていけるのか心配していた癖に、彼が側にいると、不思議と欠けた何かが補完された気分になった。

気が付けば、いつもそのポジションに居て当たり前で我輩の日常の一部だった。
けれど、どんなに美しくても男だ…

愛を囁く相手は我輩じゃないよ。そんな顔をしてちゃいけない。
タママには幸せになって欲しいんだよ!!

大切だから…誰より幸せに…

突き放すことも優しさだとそう思ってた。


タママが我輩の元に遊びに来なくなった。
こんな事、今まで一度もなかった。
皆の手前、平静を装うも内心穏やかではいられない。

やはり傷ついていたのだと確信する。

気がつくと西澤邸の玄関に足を運んでいた。
手っ取り早く超空間を使ってもよいのだろうが、傷つけた代償として自分の足で会いに行く事を選んだ。
玄関先にタママの匂いがしたような気がした。

だが願い空しく、メイド殿に「タママ様は桃華お嬢様とお出かけです」と言われた。
今日でもう4日目。

回れ右して、元来た道を帰る。
炎天下の日差しは、ケロン人にはいささかきつく、ふらふらしながら歩いた。

喉が渇く。

自動販売機の冷たいジュースを飲もうと、硬貨を入れた。

ピっという音と共に缶が落ちる。
取り出し口に手をやると、足元に蝉の抜け殻が落ちているのを見つけた。

それを手に乗せた。
軽くて、手にしている実感がない。
少し力を入れれば粉々になってしまう繊細さ。

まるで今のタママみたいに。

体中の水分が干からびたような感覚なのに涙が零れた。

ねぇ・・・タママ・・・なんでなの。

声を殺して泣いた。

最近、ガンプラ作っても集中できないし、全然楽しくないんだ。

ふと、そこにいるんじゃないかと振り返っても隣にいない。

あるのは寂しさと孤独だけだった。


暫くしてタママが我輩の隣から消え、変わりにドロロを頼ったと聞いた。

何、この胸をえぐられるような衝撃は。あまりの痛さに発狂しそうになる。周りに見せないけれど、心穏やかなんていられない。
タママの『好き』に甘えてただけだ。過信してた、我輩から離れないって。

自分を偽る材料にしてた。余裕ぶっこいてた。

何で自分のところに来ない?嘘をつく?そんなに我輩の事が嫌いになった訳?ドロロのどこがいいんだよ!

我輩…ドロロに、嫉妬してる…

最早、自覚しない訳にいかなかった。

タママを意識してるだなんて。

あり得ない!!だって男同士だ!タママだって冗談の好きかも知れない。でなきゃあんなに何度も言う筈がない。

違う違う。これは部下の心配をしているだけだ…

……。

冷汗が流れる。
タママとドロロがむつまじく寄り添う妄想がよぎり胸が締め付けられる。
見たくない。

胸の鼓動が高鳴った。
これはリビドーなのか、恋なのか。独占欲なのか。

はっきりした答えは出ないが、只思うことは一つ。

そこは我輩のものであります。タママの隣はだれにも渡さない。

今はそれだけだ。

肩透かしのような真似事はやめてもらおう。
空蝉のように残像だけ残すのは許さない。

あの日持ち帰った蝉の抜け殻を見つめながら強く思った。

何が何でも衣の中身を奪還するであります。

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