keroro said.
□心乱すか、冷酒に酔うか
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「除隊お願いします」と言われた。
嫌な予感ほど当たるのはなんでだろうと内心
どきまぎしながら平静を装おった。
すんなり仲直りできますようにと切実に願ってあっさり裏切られた。希望って絶対叶わないんだよな。
否、本当はこう言われるかもとなんとなく気づいていたからアレコレ、シミュレーションしてたんだけど。
昨日の出来事を回想した。
ジリジリと白熱灯が部屋を照らす。
大嫌いと罵られ、タママの姿が消えた扉を見ながらどれだけの時間佇んでいたろうか。
タママが思い通りにならないのは今に始まったことじゃないがそれなりにコントロールしてきた筈だった。
それが面と向かって我輩を嫌いと言うなんて。初めての事に動揺した。
なんだかこのままタママが遠くに行ってしまう気がする。そう思うと胸が異様にうずいた。動機がするのに冷や汗が出る。
そんな事許さない。絶対にはなさない。
頭をよぎる最悪な結果を必死で打ち消すが澱のように我輩の心にこびりつき、不安は拭いさることができなかった。かわりに暗い欲望が頭をもたげる。
…例えタママにこのまま嫌われたとしても構わない。絶対、我輩の傍から逃げられないようにしてやる。
ベッドにのそのそと入るも、体は興奮し妙に冴え冴えとしていた。
眠りにつけない程、気になってしょうがない。
明日は絶対にいつも通りにふるまわなければ。誰も犠牲者が出ず、かつ成功しないへっぽこな作戦を打ち出さなければ。で、タママに謝る…
でもなんて言えばいい?
あんな事するつもりはなかった筈なのに。
あんな事・・・!?
急にあの柔らかな感触を思い出しうろたえた。
少し抱き寄せただけで軽々と押さえがきく体。しなやかで弾力のある柔い肌。キスの快楽を知らないのか、なすがままにされる舌。
目を閉じるも浮かぶのは不謹慎にも嫌がるタママにした仕打ちばかりだった。
そんな事を考えている余裕は無いのに。
タママがイケないんでありますと気がつけば独り言を言っていた。
あの時、振り返るまでは平常心を保てた筈だった。なのに我輩の知らない間に綺麗になってなんかいるから。一瞬、美しさに気圧された。
だが、その変化を独り占めしていたのがドロロだったのかと思うと途端に心が捩れた。
もしかしたらドロロのせいであんなに綺麗になったわけ?
なんで嘘つくわけ?
我輩に好き好き言ってたのは嘘だったわけ?
その目がうつす先は我輩だろ?
苛々する気持ちが傷つけたく無いのに暴走して、タママに容赦なくあたってしまった。
気がつけば壁へと押し付け、口付けていた。
男だろうが、関係無い。
そんな言葉が過ぎった。
ああ、これが我輩が必死に隠してきた本心か。
コレは我輩だけの物。
この唇は我輩だけ知っていればいいんだよ!
余所見するなよ、避けてんじゃねーよ。
タママが嫌がっているのを承知で続けた。
我輩はため息をついた。
こんな必死になったの・・・初めてでありますよ。
経験値はあまりない我輩だけどさぁ。
それなりの恋愛はしてたんだぜ。
それなのに生まれて初めて初恋したようなこの体たらくっぷり。
しかもノーマルだったのに、こんな年下の男相手に狂ってしまってる。
なんとしても攻略したい。占領したい。
どうも寝付けそうにない。
冷蔵庫の方へ行き、冷酒を取り出した。
口に広がるアルコールに酔いしれたい気分だ。
グラスから零れる冷たさに、再びシュミレーションする。
タママはああ見えて、中身は潔いところがある。きっと辞めるっていいだすかもしれない。キリっと胸が痛んだが、それに構っている暇はなかった。
捕縛するためなら何とでも言ってやるし、除隊させるなど更々その気はない。手元にいてもらわないと困る。
タママを思いながら一晩中我輩が寝つくことはなかった。
なのでタママの問題発言に気が動転しそうになるもポーカーフェイスはなんとか保てた。
本当は会議室に入るのさえやっとの思いで扉を開けたし、こちらを見ないタママに酷く傷つけられていた。一言が緊張の連続で、震えやしないかと心配になった。振り払われた手も行き場を失い力なくなっていた。
正直、いっぱいいっぱいだ。それでも余裕綽々な軍曹さんを演じる。目をそらさない。僅かなプライドと少しでもタママに良く見られたい、そんな見栄のために。
ため息をつくと、手は勝手に辞職届を破っていた。
戸惑う表情をするタママを、どうしようもなく愛しく感じる。
参ったなぁ…よりによって突撃兵に恋患いとは。一番失う確率高いのにその大穴は実に危険だ。
だが自分自身を騙せる訳がない。
…触れたくて見つめていたくて、その気持ちが止まらない。
そっとタママの頬に触れると少し緊張が解け我輩は微笑した。