keroro said.

□ムーンライトセレナーデ
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我輩は迷っていた。
夕べの作戦はやはり失敗に終わった。

大体、タママの事がちらついて気もそぞろになってしょうがないのだから、うまく行く筈も無かった。ギロロが文句を言っていたが、それすら耳に入らなかったのだから。

タママが居ない事についての理由を求めてくる者は幸いにもいなかった。
皆、タママの変化に気づいているのだろう。

もし、他の隊員がタママを好きになってしまったら・・・我輩はどうするのだろう。


その後は深い眠りについた。夢を見た。
そこは何かのパーティー会場だった。何人かちらほら高級将校がいた。
皆、きらびやかな衣装をまとっている。不思議な事に自分もタキシードを着ていた。

慎ましやかな婦人のクスクスという笑いと品定めする視線がいりまじる。その場にそぐわない自分に苛立った。冷えた気分でドン・ペリニョンをのみほす。

こういうのは嫌いだ。一生かかってもなじめそうにない。

突然会場がざわめいた。ため息と羨望の言葉がその場を占領する。

『…様の御令嬢だわ。』
口々に囁かれる噂の中から辛うじて聞こえた。

意味もなく声のする方をみると純白のドレスに身を包んだタママがいた。当たり前だが軍の帽子はなく変わりにフワフワ揺れる白い羽のついた飾りを髪にとめている。漆黒に艶めく髪が白い肌とドレスを際立たせていた。

彼女は自分のものではない。
痛い程、世界の違いを感じるのに身の程知らずにも、求める気持ちが止まらない。

『タママ』

目の前を通り過ぎる彼女に思わず呼び掛けた。振り向け。心の中で叫んでいた。

『軍曹さん』

振り返りケロロを見つけて驚くタママ。思いが叶うまで、まるでスローモーションの映像のように時間が長かった。

駆け寄るタママに懐かしい気持ちになる。そういやタママが小隊を離れて5年。大人になったタママはまぶしかった。

『お久しぶりです』

タママは恥ずかしそうにはにかんだ。おどけた調子で言えばクスリとタママが笑った。

『相変わらずですね。なんだか昔に戻ったみたいですぅ』

からかうような瞳で言うからみいってしまう。

『タママ。』
『はい?』
『私と踊っていただけますか』

ゆっくりと我輩は膝まずき手を差し伸べた。温かく柔らかな指の感触があった。それだけで夢見心地になる。

『・・・喜んで』
このてに触れたのは遥か遠くに思える。たった五年なのにね。握った手に柄になく願う。もう二度と離させはしない。

高まる気持ちを押さえながらダンスホールにつれだす。慣れた様子でタママの腰に手を回す。寄り添うような距離で改めて見つめる。伏し目がちな瞼に淡いピンクが施され…時たま覗かせる漆黒の瞳に何度目かの恋に落ちる。

上気した頬はとても艶っぽい。
動く度に揺れるピアスが輝く。他の人に聞かれないようにそっと耳元に囁いた。

『ずっとこうしたかった。』
ハッとタママが顔をあげる。みるみるうちに曇り、やがて彼女はうつ向いた。

『もう遅いです…』
我輩は気付いた。タママの頬を伝う一筋の涙を。ターンするため片手を話すと彼女は自分から遠くに、そしてクルクルと戻ってきた。

『僕…来月、結婚するんです』

気が付けば見慣れた天井が目の前にあった。ゲロォ〜…涙を流していたのは自分かよとツッコミながら顔を洗いに行った。

ああ、とうとう女タママの夢まで見てしまった。そんなに好きなんて、変態にも程がある。

自分を罵倒しながらさっきの夢のエンディングが現実にならないといいのに。
そう思った。

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