Orikyara Side
□ピアノ・バーボン・それから、愛
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紹介したい人がいるんだけどという遠まわしな相談の手紙をもらった。
遠くにいても側にいるほどの臨場感のある映像と音、質感に匂いまで再現できるサービスを使わず、わざわざ手紙という古風な方法をとるのは実はシャイだからだと知っている。
そうか、もうそんな歳なのねと胸が熱くなった。
あの頃は私もまだ17の小娘だった。
孤児院で育った私は、すぐに独立したくて16の時、施設を飛び出した。まだ世間の厳しさも知らなかったのだ。
手っ取り早く酒場で働き口を見つけたものの、あまり周囲となじめずにいた。
朝まで働き、へとへとになって眠る。
夕方になればまた酒場で歌ったり、接客するの繰り返し。
それでも自由を手に入れて、私は有頂天だった。
その日も疲れて浮腫んだ足を引きづりながら家路につこうとしていた。
自分でない足音がついてきていると気がついたのは、家につく数メートルの時点だった。
まさか・・・と思いながら注意深く耳を傾ける。
やはりついてきているような気がする。
怖くなり早足でアパートに向かおうとしたその次の瞬間。
私は背後から引き倒され、地面の上にいた。
男の腕が私を羽交い絞めにして抵抗ができない。
声を上げようとしても口をふさがれ、しかも塞いでいる手には厚い軍手がついていて噛み付けない。
必死にもがいたが、その力にかなうわけも無かった。
恐怖で体が竦み、血の気が引いているのが分かった。
ドガッ!!!
何かをぶつけたような音がした瞬間、私を拘束していた腕が離れた。
「女性は優しく扱わなくてはならないんです。そんなことも分からないなんて・・・
貴方モテないでしょう?」
女の声がする。
後ろを振り返るとヘルメットをかぶった男が、女の足元に転がされていた。
女を見て驚いた。
ありえないほどの美しい女だったが、それだけで驚いたわけではなかった。
彼女の二倍はあろうかという大男を倒したと思えない、華奢な体つきに幼い顔立ち。
喧嘩などと対照的に、生け花や紅茶などを嗜みそうな美しい指先と所作。
どこか夢を見ているような頼りの無い瞳。
その女は甘い砂糖菓子のようにフワフワとした笑顔を浮かべていた。
世の中、本当にこんな女が居るのだと思ったらなんだか自分の存在が恥ずかしくなった。
ランクが違う。
違う世界のお姫様だ。
きっと本物のお嬢様はこんな感じなのだろうと思ったのを今でも覚えている。
「大丈夫でしたか?」
容貌にたがわず、おっとりとした口調で彼女は手を差し出した。
「だ、だいじょうぶです・・・」
差し出された手に素直に捕まり立ち上がると、彼女の後方に視線を感じた。
やはり彼女に似て、愛くるしい瞳の小さな子供。
それがタママだった。