tamama said.

□斉藤さんにうってつけな夏
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「あっはっは。痛いでありますよ。やったなコイツぅ〜」

ケロロはニヤけながら、トスっとタママのおでこを突付いた。

「何をしとるんだ、お前たちは!」

いきなりドアを蹴破ってギロロが軍曹ルームに入ってきた。

甘い時間もギロロの一声で終わりを告げた。
タママはすぐさまベッドから離れようとしたがケロロが羽交い絞めにしているので、それは出来なかった。

軍曹さん!と非難めいた目で後ろを仰いだが、気づかないフリなのかケロロは平然としている。

恥ずかしさにタママは顔を赤らめたが、負けじとギロロもあちこち赤い。

「ももももしやお前ら・・・」
動揺しているのかギロロの声は裏返っている。

「ゲロゲロリ。羨ましいでしょ。」

「バ、バカか!軍人たるものそんな不埒なこと!」

「不埒ってまだキスしかしてないもんねー」
と、突然ケロロはタママのほっぺに口付けた。

「はわわ!軍曹さんっ!」

「!」
ギロロの体から湯気が立ち上っている。
その鼻息は異常に荒く、青筋だらけの顔面はまるで鬼そのもの。
踏ん張りすぎなのか、いただけない音を立てながらフローリングの床がめり込んでいる。
タママはいろんな意味で縮み上がった。

「お前ら、離れんかー!!」

今にも武器を取り出しかねない勢いで
ギロロは怒鳴った。
しかし、ケロロは意に介せずケロっとしている。

「やだねー」

間延びしたようなケロロの言葉にいよいよギロロの怒りは臨界点に達しようとしていた、その時。

「ぐんそー」

冬樹は何気なくドアを開いたのだが
目の前の光景に顔を赤らめ絶句した。

「日向君?」

「冬樹殿?」

後ろから着いてきた桃華とドロロはドアの前に立ち尽くす冬樹に声を掛けた。

その声に冬樹は我に返り「ごめん」と言って、慌てて部屋から出ようとした。

「ま、待て冬樹!出て行くな!」

一人でバカップルのノロケを見るのは辛いらしくギロロが引き止めようとした。

何しろ鈍感な冬樹でも分かる、ピンクめいた空気が部屋中に充満しているのだから。
傍からみている方が恥ずかしくてならない。

幽霊ちゃんなど出るに出られなくて、壁の中に避難している。(しかし、覗き見はしていた)

「でも、お取り込み中みたいだし・・・」
「いいからココに居ろ!」

困惑した表情を浮かべて冬樹が部屋に入る。
続いてドロロ、桃華も入って絶句した。

「タマちゃ・・・」
「隊長殿・・・」

次に掛ける言葉が見つからず、三人は俯いた。
ギロロだけ憤慨しながら怒鳴り散らしているが相変わらずケロロはタママを離さない。
タママは雰囲気に推されて、振りほどけずにいた。

「よう。もうお揃いかい」

割って入るように地下基地に続く扉が開いた。ぬっとクルルが顔を出した。

「どうやら元に戻っちまったみたいだな。」

雰囲気に飲まれることなく、誰もが口にしていない事実だけを淡々と述べた。

ケロロを除く一同が、思った。
その場の空気を壊したクルルを神だと。
ギロロに至っては、これほどクルルに感謝したことはなかった。

「そうそう。だから報告は無しね〜。タママにはこれまで通り前線に出てもらうであります。」

混乱に乗じて、ケロロは何気なく決定事項を下した。

ギロロのあいた口は塞がらず、酸欠の金魚のようにパクパクと動かした。
軍人たるもの如何なる場合でも冷静であるべし。日頃から心掛けているつもりなのだが、
あまりに突拍子のない提案に状況判断できず混乱した。

「な・・・問題はそれだけじゃないだろう?」
掠れた声で少し冷静になったギロロが問う。

「ギロロ先輩・・・」

タママが口を開いた。自分の事は自分で解決したい。これ以上、軍曹さんに迷惑かけたくないから。

真剣にタママは言葉を紡いだ。

「今すぐには無理ですけれど、あと数週間、僕に時間をください。
それまでになんとかなるようにしておきますから。」

真摯な態度にギロロは胸を打たれた。だが・・・
「・・・しかし、ケロロがますます腑抜けになるだろうが。」

すると透かさずケロロが口を挟む。

「公私混合はしないつもりであります!!」

「言ってるそばからしとるだろうが!」
「クックー。説得力0(ゼロ)」
「ケロロ君・・・」

心底呆れた調子でツッコミが入った。
確かに今この状態じゃ無理もないよなとタママすら無言でツッコミをいれた。

しかしそんな事など、どこ吹く風なケロロは一笑に付すと煩そうにギャラリーを見た。

「もうずっと一緒にいて家族のようなもんだから。このメンバーでペコポン侵略したいでありますよ。
それに今更フォーメーション変えるの大変でしょ。・・・タママがいなくなったら、我輩鬱になるかもよ。そうなったらギロロ、責任とれんの?」

静かに、しかし有無を言わさぬ何かがあった。その態度に、ギロロも慎重になる。

「本気で言ってるのか」
「最初からそのつもりであります」

その答えの真意を探るように、じっと見つめていたギロロだったがやがて腕組みをしながらため息をついた。

「・・・そうか。ならば俺も手伝おう。これからは二人っきりで、どんどんタママをしごいていくぞ。」

言葉はキツイが、声音は優しかった。
暗に認めてくれたのだとタママは悟った。
嬉しくなって顔が明るくなるのが自分でも分かる。

「はいですぅ!先輩!ドンドンしごいてください!ドジでのろまな亀ですが、必ず耐えてスチュワーデス・・・もとい立派な突撃兵になってみせます!」

敬礼をしたかったが、ケロロに腕をとられたままなので返事だけ気持ちを込めていった。
しばし見詰め合ってお互いの気持ちを探る。

「ちょっとー!二人っきりって何なのよ!」
とケロロが喚いていたが、二人の耳には届かない。

「・・・それだけだ。じゃあな」
ギロロはニヒルに微笑み部屋を後にした。

ケロロは嫌な汗をかいて、ドアの方を睨み付けていた。

ギロロなりにからかっているつもりなのだろうが、全く面白くない。
タママもタママでありますよ!
なんで今日に限ってノリがいいんでありますか。

そんなケロロの感情の渦に気づかないのか、
ドロロが笑顔で二人に近寄ってきた。

「タママ殿。拙者も微力を尽くすでござる」
「ドロロ先輩!」
「タママ君はドジでのろまで可愛い亀だよ」
「教官・・・は、つい迫力重視でいってしまったですぅ」

何気に酷い事を言っているのだが、
可愛いの言葉が全てを打ち消している。
二人の間に、一昔前の師弟関係のドラマのような親密な空気が漂った。

それを見ていたケロロは手で追い払うような仕草で苦々しく言い放った。

「ハイハイ。判ったからどっか行ってよね」
「そんな!ひどいよケロロ君」

にべもないケロロの一言にドロロのトラウマスイッチが入るのをしょうがなく思いながらタママは困ったように笑った。

「クルルは?問題ないよね?」

「ひとごとと書いて人事だからな。隊長の好きにすればいいぜぇ。」

「あっそ。」

意外にもクルルはあっさりと去っていった。

「なんか良くわからないけれど、仲直りしたんだね」

傍観していた冬樹がにっこりと笑った。
桃華は少し潤んだ眼をしている。

ようやくケロロはタママを解放した。
タママが振り返ると、ケロロは頷いた。
それを確認してから桃華の元に駆け寄った。

「タマちゃん、ごめんね」

「なんで謝るですぅ?」

にっこり笑うとタママは飛びつく。
桃華が抱き上げると耳元に唇を寄せた。

「仲直りさせようとしてくれたですぅ。モモッチ、ありがとうですぅ!」

二人だけに聞こえるように小声で耳打ちした。

「うん・・・良かったね、タマちゃん」
桃華は嬉しそうに笑った。

二人の様子を見守っていた冬樹が口を開いた。

「じゃあ、ご飯食べよ。上で姉ちゃんが待ってるよ」

「そうでありますな。我輩、もうお腹ぺっこぺこであります」
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