SSその2

□恋風
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家に帰ると学校から戻ってきたばかりのモモッチが美味しそうなお菓子を食べていた。

「あら、タマちゃん。今日は遅かったのね。はい、おやつですよ」

自分の隣のソファーをトントンと叩いて、ここにおいでと合図をくれた。
僕は駆け寄ってそこに座った。

お菓子に手を伸ばしかけた瞬間、脳裡に丸くなった背中を思い出す。

軍曹さん、すごくショック受けてたな…ご飯も喉を通らないんじゃないかな。

そう思うとなんだか心配になってきた。

今でも一人で泣いてるのかな。
みっともないですぅ。
でも・・・気になっちゃうじゃないですか。

何のフォローもしないで部屋を出たから、罪悪感を感じちゃうじゃないですか。

そんな後味悪いの、僕ごめんですからね。
だからかな?
お菓子があんまり美味しくない。

僕はポールに持ってこさせた携帯電話のボタンを押した。
発信音がやけに長く感じられる。
なんでドキドキしちゃうんだろう・・・。
早く出て欲しいのに、出て欲しくない。

「ハイ・・・モシモシ」

僕があれこれ考えていると突然軍曹さんの声が聞こえてきた。
わっ、声のトーンが小さいし暗い。

そんな情けない声なのに、緊張しちゃう。
いつも聞いてる声だけど電話越しだとなんだか嬉しくて、僕は不謹慎にもハイテンションになりそうだった。

いけない。
顔が見られることはないけれど、にやける顔が抑えられない。

「モシモシ。軍曹さんですかァ〜〜〜?」

自分でも驚くほど柔らかい声が出た。
うう、ちょっとこそばゆくなってきた。

「・・・ああ。隊長殿・・・私に何か御用でも・・・?」

すごい嗄れ声。
あーあ、すっかり落ち込んじゃっていつもの見る影もない声してる。

「いやだなァ、やめて下さいですぅ〜!伝令はどうあれ軍曹さんはボクのココロの隊長ですぅ!これからも・・・いつまでも・・・それだけですぅ!それじゃ!!」

言っているうちに恥ずかしくなった僕は慌てて電話を切った。

「あら?タマちゃん、今の告白?」

「え?やだなぁ!違うですぅ!」

そっか、はたから聞いたら告白に聞こえるんだ。
顔が火照ったのを覚ますように、急いで僕はコーラを口に含んだ。
小さな気泡が口の中でいくつもはじける。

告白・・・かぁ。
今まで何度かそれとなく言ってみたけど、いつものらりくらりとかわされてきたんだっけ。
その事実を思い出して、突然、表面張力を失った涙が瞼から溢れた。

モモッチが慌てて慰めの言葉をかけてくれるのだけど、耳に入ってこなかった。

きっとこの先、どんなに思いを伝えてもどうにもならないんじゃないか?
そう思うと一緒にいる事が辛くてしょうがない。
沢山の枕を濡らした夜の感情がボクを唆す。

早く侵略を終わらせてしまえ。
そうすれば顔をあわすことも、苦しむこともなくなるよ。
いつまでも嫉妬に喘ぐこともない。
楽になろうよ。

クルル先輩なら協力してくれるよ・・・
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