SSその2

□ぬくもり
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ぎしっと軋む音と共に、ベッドに体重がかかるのを感じて呼吸が乱れそうになった。

僕が目を閉じながらドギマギしていると、ふいに布団がめくられた。

ひんやりと冷たい空気と一緒に、冷えた体が布団の中にもぐりこんで来る。

間違いない。
ぐぐぐ軍曹さんが!軍曹さんが来たぁ!

こうして軍曹さんのベットに寝かされただけでも嬉しいのに、一つの布団で一緒にねねねね寝るだなんて!
一緒に昼寝することは何度もあったけれど、それとこれとは訳が違う。
僕だけが軍曹さんを独り占めしてる。
なんだか大人になった気分ですぅ…

軍曹さんの冷たい体が、火照り過ぎた僕の体の熱を奪ってゆく。
僕の意志に関係なく肌が粟立ったけれど、それすら心地よくて眠気なんか忘れてしまった。

軍曹さんの規則正しい息遣いが間近に聞こえてくすぐったい。

ふにゃー、僕、幸せですぅ!!!
僕は心の中で叫びまくった。

時間は止まってくれそうにないから、僕はいっぱい幸せな気分を噛み締めた。
眠んなくても、夢見心地。

ああ、ずっとこのままでいたいですぅ!

でも欲を言えばもっとくっつきたい…ですぅ。

僕は気づかれないようにうっすらと目を開けた。

軍曹さんは軍人らしく真っ直ぐ仰向けに寝ていた。

…やっちゃえよ。
もう一人の自分が囁く。

今ならできんじゃん。あの女の邪魔も入らないぜ。

でも、こんな時に限って尻込みしそうになる自分に裏の僕は遮るように囁いた。

YOU,やっちゃいなYO。
勇気を出すんだ、タママ。戦士だろう!

薄目のまま、軍曹さんの口元の位置を窃視して覚える。思ったより、近かった。

そうですぅ、僕はあの女になんか負けないですぅ。チャンスは物にしないと意味がないんですぅ。

自分にはっぱをかけると、ままよ!と眠ったフリして軍曹さんに抱きついた。

「へひょ?タママ?」

軍曹さんの裏返った声が聞こえる。
僕は抱き枕を抱えるように軍曹さんに抱きついたまま、目を閉じ続けていた。
軍曹さんの肌、しっとりして気持ちいいですぅ…
幸せの絶頂の中で、軍曹さんの目には寝ているタママの僕はそのまま唇を奪った。

「!!!」

軍曹さんの体は痙攣したようにビクっと引きつったまま硬直した。

わーい!ついにやったですぅ!
軍曹さんにキッスしちゃったですぅ!

ニヤケそうになる顔を必死で寝顔のままにする。
唇には想像以上に柔らかな感触がのったまま…

どうしよう。
今、死にたい。
このまま死んでしまいたい位、幸せ過ぎるですぅ。
軍曹さんをこのまま抱き枕にして朝までこうしてたいです。
あ!でも心臓の音聞かれたら、僕が狸寝入りしていることがバレちゃうな。

そしたら軍曹さんどんな顔するんだろう?
それに、今はどんな表情してるの?

さすがに近すぎて薄目を開けることはできないのが残念ですぅ。

あ、あれ?
幸せに酔いしれている僕の腕を、足を、唇をそっと軍曹さんは外すとベットから出て行った。
そのまま軍曹ルームのドアの方に足音が遠ざかり、やがて気配が消えた。

僕の心は、ジェットコースターのように突き落とされた…
残されたぬくもりにしがみつくと、僕は歯を食いしばって泣いた。
段々とその温もりが冷たくなってゆく。
ただ染み付いた残り香だけが、余計に僕の心を締め上げてゆく。


そんなに僕がイヤですか?
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