SSその2

□ぬくもり
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どんな顔して会おう。

自分の部屋なのに入るのが躊躇われるなんてちょっとおかしくね?
結局、一睡もできずに浮腫んだ顔で我輩の部屋の前でつったっていた。
このドアの向こうにタママが。

そう考えると妙に落ち着かない気分になる。
深呼吸を数度した後に、両頬を叩いて気合を入れた。
ドアを一気に開け、閉じていた目を開けるとタママがベッドの上でこちらを見ていた。

「あ…」

別に打ち合わせをした訳でも無いのに、示し合わせたように同じセリフを同じタイミングで言ってしまった。

「おはよ(ですぅ)」

まただ。これじゃケロン人エコーだってば。

喧嘩した翌日でもこんな気まずい朝は初めてだった。

「…軍曹さん、怒ってるですぅ?」

「怒ってなんかないよ」

「怒ってるですぅ。」

「ああ、怒ってるね」

タママの顔が引きつった。良く見れば泣いたのか頬に白い筋がうっすら出来ていた。
昨日の夜は幸せそうに寝ていたようだったけれど、あれから悪夢にでもうなされたのだろうか。

「仮にも侵略部隊の一員があんなところで酔い潰れるなんて少し自覚が足りないんじゃないの?タママ二等。」

「あ、ごめんなさいですぅ。でも僕、友達と一緒だったし大丈夫ですよ。」

にこっ。
ホッとしたように頑是無い顔をするタママに苛々した。
その友達が危ないって言ってんでしょうが!
あいつは下心の塊だっつーの。
キスしようとしてたんだから!と内心、舌打ちした所で意識がタママの口元に集中してしまった。

「……タママ、俺を殴ってくれ」

「は?」

「いいから。」


言葉の意味が通じない外人のようなリアクションをするタママをせかした。
早く殴ってくれ。
そうでないと、そうでないとぉおお!

「はぁ。」

訝しげな表情を浮かべ、気のない返事をしたタママが我輩に近寄ってきた。

さ、早く殴るであります。
お願い、煩悩を断ち切って!
意識が飛ぶくらいのすっごい奴をお見舞いしてくれ!
あと30cmくらいの距離、そこならクリティカルヒットが出る。さぁ、来い!
心の準備は万端だった。

「あっ!」
運命のいたずらとしか思えない。
タママがコケたのだ。
そんな、なにも無いところで???
タママはそのままよろけて我輩の方に倒れるので、咄嗟に手を差し出していた。

気が付けば、抱きしめていた。
なんじゃこりゃーーーー!
あまりの事に、声が出せなかった。
漏電した洗濯機の中に放られたようなショックに全身が震える。
我輩の混乱などお構いましにタママは頬擦りしてきやがった。

「わーい、軍曹さんに抱きしめてもらったですぅ」

けしからん程の柔らかいほっぺ…

だから自覚なさすぎなんだってば!!!
それから数日、タママを直視できなかったのは言うまでもなかった。

fin.
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