兄世代

□チェックメイトを待ってる
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あああああ。やってしまった!


ため息を吐きながら、図書館へと向かう道を急ぐ。
明日までに、硬直薬のレポート2m。鬼か!

まあ、しょうがないんだけど、さ。
面倒くさい、と思いながらも、急ぎ足になってしまう私。
逸る心は気の所為だと、誤魔化すことはできそうにない。


そもそも私が冷血鬼のスリザリン寮監から、一人だけ追加で課題を出された理由は、昨日の昼休みまで遡る。


魔法史の課題を片付けるべく、図書室に行った私。
軽くぶつかって、探してた本を渡してくれたあの人。

照れた笑みで、私の名前を呼んだ彼。


恋なんて、まだまだ先の話だと思ってた。
だけど忘れられないの。


あの微笑みを、声を、指先の、温度を。


今だって、彼がいるんじゃないかって、馬鹿みたいに期待しながら昨日の場所に向かってる。

まあそんなわけで、一日中ぼうっとしていた結果がこの課題なのだ。



図書室について、先ずはきょろきょろと辺りを見回す。
彼…ジョージ・ウィーズリーの姿はない。
当たり前か。

残念な気持ちと、少しだけの安堵。
だって今彼を見たら、心臓が爆発しちゃいそうだ。


ぎゅっと抱えていた筆記具一式を握りしめて気が付いた。

私、課題やりに来たんだった!

慌てて薬学系の棚をあさる。
硬直薬、硬直薬………これ、かな?

何冊か目星をつけて机に向かう。
深呼吸して、ジョージ・ウィーズリーのことを考えないように、心をなんとか落ち着けた。
明日までなんだから。集中しないと。
恋に現を抜かしてて、寮の点数を引かれるなんて、そんなことがあっちゃいけない。

瞬きをして気持ちを切り替え、私は愛用の羽ペンを握った。










「……あ、え、な、ちょ、ど、」



どういうこと!!?


叫びそうになった口を反射的に自ら抑え、私は目の前に座る人を凝視する。

鮮やかな赤毛をもつ誰かさんが、私の前で眠っていた。


まさかまさか、……ジョージ・ウィーズリー、……なの?


パニックだ。大混乱だ。
一体全体どういうこと!?
いっぱい席は空いているのに。
わざわざ私の目の前だなんて!

その時、マダムが片付け始める姿を見て、もうすぐ閉館時間だと気が付いた。
彼の片割れの姿はない。
私が、起こしてあげた方が…いい、んだよね?

気持ち良さそうな寝顔に罪悪感を覚えながら、そっと彼の肩を揺すった。



「ウィーズリーくん、起きて。もう閉まっちゃうよ」

「………んー……、あと2時間…」

「に、2時間だと!無理だよ、起きて、ねえ…ウィーズリーくん、……ジョージくん、」



がばあっ!と、それはもう腰を抜かすかと思うほどに勢いよく、ジョージ・ウィーズリーは顔をあげた。

あ、危ないな!鼻かすった!今!

いきなり早くなった心臓を宥めようと、ぜーはーと深呼吸をする。
一方彼は、ここがどこなのか確認するように首を回し、私の姿を確認すると、驚いた顔をした。



「……あれ?ミス ブラウニー?」

「う、うん。ウィーズリーくん、もう閉館だよ」

「ああ……そっか」



彼はガシガシと頭をかくと、そっか、寝ちまったのか、と呟いた。



「課題終わったの?」

「え?…うん。終わった」

「そっか。お疲れさん」



にっと笑って席を立つと、私を出口へと促した。
廊下に出ても、彼は私に背を向けようとしない。

どうしたんだろう。
彼のグリフィンドール寮は、我がレイブンクローの反対側だ。

じゃあ、と言いかけると、彼は私の荷物を取り上げた。



「……えっと…?」

「送ってくよ、ミス ブラウニー。もうこんな時間だしね」

「わ、悪いよそんな!レイブンクローは遠いのに!」

「ほらほら、置いてっちまうぜ。いい近道教えてやるから」



そう言ってすたすたと、迷うそぶりも見せずに前を行く。
何を言っても無駄なのを悟って、私はおとなしく従った。

とくんとくんと速い鼓動。
バレてないかな。バレないよね?

とても隣になんか並べなくて、彼の斜め後ろを着いていく。
誰もいない廊下、不意に彼は振り返った。



「なんで後ろにいるの?ミス ブラウニー」

「えっ?あ、その……なんとなく…?」

「なんだか寂しいなあ。嫌われてるみたいだ」

「そ、んなことない!」



思ったより大きな声を出してしまった。
慌てて口を押さえてももう遅い。
きょとんと彼は私を見た後、クスクスと笑いだした。

緊張しているのは私だけ。

当たり前だけど悲しくなって、ついつい口に出してしまった。



「ウィーズリーくんも、私のことミス ブラウニーだなんて…なんだか嫌われているみたい」

「………え?」



彼の疑問の声に、ハッとして口を閉じる。
口は災いの元。馬鹿だ私は。

それきり黙って廊下を歩く。
……嫌われちゃった、かな。
図々しく、馬鹿なことを言ったから。



再び、彼が歩みを止めた。



「……アリス」

「……!」

「ごめん、気を悪くした?馴れ馴れしかったかなって思ったんだ」

「……ううん。その…、名前で、呼んでくれたら…嬉しい」



どんどん小さくなる語尾も、彼はきちんと拾ってくれた。
そして悪戯な笑みを浮かべて、じゃあアリスも僕を名前で呼んでくれるよね?と言う。

勿論そんなお誘いは万々歳で、恐る恐る名前を呼んだ。



「……じ…ジョージ、くん…」

「おう!……って、あれ?僕、君にジョージだって言ったっけ?」

「え?…言ってないと思うけど」

「……マジかよ」



ジョージくんは黙って私に背を向けた。
一体どうしたんだ。実はフレッドくん…なわけではない、よね?



そしてそのまま歩き続け、いつしか寮の前に着いていた。
残念、と思いつつ、ジョージくんにお礼を言おうと顔を見る。

そしたら彼は、ほんのり赤い顔で私に言ったんだ。




「今週末、ふたりで一緒にホグズミードへ行かない?」







震える声で了承すれば、
彼は嬉しそうに笑って帰っていった。

(私の心臓、ば く は つ しそう!)


title by 狗眼






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