鱗詞

□鱗日和
2ページ/4ページ

 金曜は授業がないので、昼間から下着姿で、インスタントのコーヒーを淹れて音楽をかける。怠惰で自由な女みたいに。

 スタンドをオレンジ色の明かりにしたのは正解だった。蛍光灯の、真っ白な光は私を不安にする。明るすぎてそわそわしてしまう。大好きなカップはとりと花の模様で、机の上には一番好きな映画を飾っている。クリスマスにもらったみどりのクルミ割り人形は、まだ一度も使った事はないけれど、お気に入りのもの達と一緒に、堂々と棚に鎮座している。
 こちらに越してきてからできた彼氏は、気はいいけれどあまり趣味がいいとは言えない。ただ素敵な骨格を持っていると思う。あごの線がとてもきれいなのだ。時にすごく好きだと思えるけれど、時に何の関心も持てなくなる。人の心は移ろうものだから、仕方ないのかもしれないけれど、そんな時は心の底から寂しくなってしまう。自分がこんなに愛のうすい人間なのかと思い知らされる。人間とは生まれながらに独りぼっちなのだ。どんなに好きでも、次の瞬間には忘れてしまう。そういうものなのかもしれない。
 いつになったら本当に怠惰で自由な女になれるのかしら、といつも考える。夢のような話だ、そんなものは。忘れてしまうのは悲しいし、怠惰でいるのにも体力がいる。誰も自由ではないし、ひどく孤独だ。そんなものなのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ