鱗詞

□鱗の話
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変身

 朝私が目覚めると、天井が非常に近かった。昨晩は床に敷いた固い布団で仰向けに寝ていた訳だが、今では天井が低すぎて上体を起こす事さえままならない。
 寝返り程度ならば打てたので、転がって布団を出、腹這いになって移動した。台所も便所も、全ての天井が近かった。仕方が無いので腹這いでひたすら移動した。
 台所に貯蔵しておいた果物をかじった。先月田舎の母から送って貰った林檎で有る。汁で口の周りが汚れてしまったので水場を求めてまた這った。水を溜めてあった洗面器に口を浸けてぴしゃぴしゃと音を立てて飲んだ。
 便所の方はかなり苦労した。上体すら起こせないので色々と工夫をしなければならなかった。何とか用を足し終えた頃にはすっかり体力を使い果たして居たものだから、寝床まで這って行って少し眠った。

 暫くしてまた腹が減り目が覚めた。しかし台所には林檎しか無い。肉が食べたいという直接的な思いに捕われ、外に出る事にした。ずるりずるりと家を這い出れば、泥で体中が汚れたがあまり気にならなかった。

 そのままずるりずるりと這って行った。

 どこまでも這って行った。
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