『漆黒の夜』
□エピローグ 共に生きる道
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景とレバインが別れてから5年の月日が流れた。その間に、クリスタルワールドは急ピッチで復旧作業が行われ、震源地だったジパングイースタンエリアも、完全にとは行かないものの、ほとんどの施設が復旧され、住民達も元の生活に戻りつつある。
海底の国、アクアマリンワールドでは平和になってから、他国に移民した国民が帰ってきて、元の活気が戻ってきたようで、正式にアクアマリンとエマは国王と王妃として、国民達に認められたのだ。
「あれから5年が経ったね。皆どうしているだろうね」
「きっと皆さん、元気に過ごしてますよ」
最果ての町。平和になる前は閉鎖的な町だったが、海上貿易を中心とした交易が発展し、徐々に他国との繋がりができたようだ。もちろん、これはリリアン率いるリリアン海賊団の提案だ。そうリリアンは、今も海上の旅に出かけているのだ。
「船長!!次はどこにいきます?」
「クリスタルブレムスだ。皆、ついてこい!!」
一方その子供達、リークとフラットは今年、リリアンの母校であるセイント・クリスタル・スクールに無事入学したのだ。
「ここが、母さんの言ってた学校かぁ」
「なかなか大きいね」
そして、ルナはと言うと、分校帰りに自分の母親のルフィアの墓参りにきていた。
「お母さん。後2年したらこの地を離れてリークくんのいるクリスタルキングダムに行きます。だけど、ずっと私はお母さんもお父さんも大好きだよ」
一方、ジパングウエスタンエリアでは、仏聖堂で厳かな結婚式が取り行われていたようだ。車椅子に座る紋付き袴の藤波。そしてその隣には白無垢姿の香純。2人はお互いの酒を酌み交わして、誰にも聞こえない声で会話する。
「これからもよろしくね?波瑠」
「もちろんです。香純さん」
そして、雨宮は相変わらず棗とネットで交流を続けていた。すると棗からクリスタルブレムスへ来ないかという誘いのメールが来たので、一応雇い主である松永みゆきに相談する。
「行ってあげたら?このチャンス逃したらあなたもう貰い手なくなるじゃない」
「あの…あくまでもネット仲間ですよ?」
「世の中どうなるか分からないじゃない。ほら、支度支度…」
一方棗は、クリスタルキャッスルにいる玲奈を呼び出し、図書館に招いた。
「あれから5年が経つんだな…」
「雅也くんがいなくなって、そんなにも時間が経ったのね…」
「今でもあいつを愛してるか?」
「もちろん、愛してる。でも…」
「もうその想いは伝わらない。あいつもズルイよな…一人勝ちじゃねーか」
「そう?棗さんも新しい人見つかったじゃない」
目を丸くする棗。何のことを言われてるか分からないようだ。
「あれ?意外と鈍感ねぇ。同じ指令本部にいた雨宮さん。あの人と付き合うんでしょ?」
「付き合うと言ってもだな。新しい研究に協力してもらうために、呼んだだけだよ」
「それは口実でしょ?」
悪戯な笑みを向ける玲奈に、ふいに雅也を思い出して苦笑する棗。
「全く…どれだけ自分色に染めてんだよあいつは」
「え?何?」
「いや、なんでもない」
その会話をバルコニー越しで聞いている和純と瑠宇。
「棗さんも雅也のこと好きだったなんて、知ってた?」
「私も初耳だな。あいつ皆に愛されてたんだ」
「そうだね。僕に持ってないものすべて持ってたもの」
すると、小さな子供が瑠宇と和純に抱き着いた。
「ねぇねぇ、何のお話してるのー」
「僕らの大切な友達の話。いつか瑠唯にも教えてあげる」
「本当…?」
「ところで、景はどこに行ったんだ?さっきまでここにいた筈だけど」
辺りを見渡すも、景の姿はどこにも見当たらない。
「今日、何の日だか知ってる?」
しばらく考えた末、あることを思い出した。
「そうだ。あいつの祥月命日だ。つまり墓参りに行ってんのか」
「そう。今、雅也と対話してる頃だろうね」
空を見上げて、ふと雅也を思い出す2人。
「本当、妹想いっていうか」
「玲奈もヤキモチ妬くほど、シスコンだったからね」
「こう言ったら悪いけど、景の中に入って本望だっただろうな。あいつは」
5年前に見た死に顔は、とても安らかだった。平和になった後、景の希望で雅也の灰を聖なる湖に撒き散らしたのだ。これは、彼女から聞いた話だが、レバインとのきっかけ、そしてこれから再会して結ばれたその日、いろんなことを見守ってほしいという意味で、灰を撒き散らしたそうだ。
「景も雅也の想い分かってたんだな」
「だから景さんも黄龍として雅也の想いを抱いて生きることにした。って本人から聞いた」
「でも愛してるのは彼ただ1人。雅也は大好きだけど愛してるとは違う感情らしい」
「早く帰ってくるといいね…」
「だな」
顔を見合わせて笑う2人。