『紅蓮の月』
□再会
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トニーズ空港に着けば、大勢の観光客で賑わっている。その光景を不思議そうに眺めるレバイン。
「あの人達は何なんだ?」
「トニーズの観光客です。私達の国は観光客と貿易で経済を潤してますからね」
「景」
「どうかされましたか?」
観光客の視線が、こちらに向けられているのに、むず痒く感じる。
「人の顔を見て面白いのか、あの人達は」
「恐らく、礼さんの背の高さに驚いてるんです。クリスタルワールドの方で、そんなにずばぬけて高い人は見かけませんからね」
「ちょっと、お手洗いに行ってくる」
「お手洗いなら、入口から右に向かったところにあります」
レバインは、景の説明通りに右に向かい、トイレに入る。幸い個室が開いていたので、メタルコンタクトを外し、茶色いコンタクトを着けた。これで幾分か好奇の目にさらされるのを防げる。そして、念のために誰もいないことを確認して、飛行機のチケットをもらう景のもとへ戻った。
「待たせたな」
景は振り返ると、首を傾げた。
「礼…さんですよね?」
確かにレバインだが、今の彼は、漆黒の髪に茶色い瞳をした純和風の姿だったために、景が一瞬戸惑ったのだ。
「和名で登録したんだからな。実を言えば、私の地毛はむしろこちらだ。でも瞳にはカラコンを入れてる。やはり、違和感を感じるか?」
「これはこれで、違った礼さんを見れて貴重ですけど?」
結局は、レバインならどんな姿でも構わないということなのだ。
景は、搭乗券をレバインに渡す。
「随分と固い紙切れのようだな」
「紙切れというよりチケットですから」
「なるほど」
2人は、ジパング行きの便の番号の場所まで、向かう。すると、窓の外には、様々な色や形状の飛行機が見えた。
「あれらは、全部人を乗せるものなのか?」
「いえ、荷物だけを持っていく貨物便もあります。あの小さい飛行機は、ポカポカアイランド行きですね」
「なるほどなぁ」
深く感心するレバイン。それもその筈だ。飛行機より遥か上空に住む彼にとっては、初めて見るものなのだ。
「そして、私達が乗るのは、あの白い飛行機です」
景が指差した先に見える飛行機は、他のどんな飛行機よりも大きい。
「ここからジパングの会社に出張なさる方も多々いらっしゃいますからね。それに4月ですから、桜も見ごろなので、トニーズの国民はそれを楽しみで行かれる方もいます。何せ銀桜は、トニーズの国民にとっては絵本だけの話としか捉えてませんからね。実際あそこまで行くには、かなりの時間がかかりますから」
「ジパングの桜は見たが、あれはあれで風情があるな。銀桜とはまたちがった良さが、ある」
以前訪れた桜並木を思い出すように、レバインは言う。
「礼さん…」
「どうかしたか?」
「棗さんのネット仲間のAmaさんはご存知ですか?ジパング在住の方だそうですが」
「Amaはアルファベット表記か?」
「多分、ローマ字かと」
「となると、名前は『あま』なんとかになるな」
しばらく考え込むレバインだったが、搭乗時間が来てしまったので、しばらく思考を停止させて、飛行機の座席に座った。
「お客様、安全のため、シートベルトをお閉めになってください」
キャビンアテンダントの言葉に首を傾げるレバイン。慌てて景が説明する。
「礼さんの腰の当たりにあるベルトです。飛行機は揺れるので、その衝撃で怪我をしないために体を固定させるものです」
景は、すかさずレバインのシートベルトを閉めた。
「動きづらいものだな」
「離陸して、安定した大気圧内に入れば、外しても構いません。しかし、それまではご辛抱を」
「分かった」
しばらくすると、飛行機の車輪が動きはじめた。
「いよいよですね、ジパング」
「まあな」
「礼さん、到着まで5時間掛かるそうですから、もし良ければ眠られてはいかがですか?」
「…だな」
レバインは、離陸する前に目を閉じてしまった。偶然通り掛かったキャビンアテンダントを呼び止め、彼のために毛布1つ貸してもらえるように頼む。すぐにキャビンアテンダントは、毛布を景に渡した。
「おやすみですか?女王」
「すみません。それは伏せておいてください。国民に知られたくないので」
「お忍びデートですか?」
「秘密です」
「旅のご無事を祈ってますね」
「ありがとうございます」
キャビンアテンダントが去ると、景は毛布をレバインに掛けてやった。
(端から見ればデートなのかしら。ちょっと、嬉しいかも)
眠るレバインの傍で、ぽぉっと顔を赤く染める景は、女王の顔ではなく一人の乙女の顔だった。
飛行機が上昇気流に入る。それと同時に、機内が揺れる。
「…ん」
その揺れで、レバインは無理矢理起こされるはめになる。