Silver Soul

□アイシテル
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日曜日の夜はベッドが広い。

土曜日の夜がとても狭いから。

日曜日の夜はとても広い。

そう、感じる。


明日になればまた、
何処かでばったり出会えるかもしれない。

そんな都合のいい考えに縋りつき、
俺は今日も眠らない想いと共に朝を待つ。


わかってた、初めから。

帰る場所のあるお前を
好きになってはいけない。


だって、俺は知ってる。

「お帰りなせェ、土方さん」

そう言って
俺の家から帰ったお前を、
笑顔で迎える恋人がお前にはいることを。

夜中だぞ。
お前が俺んちから屯所に帰るのは
夜中だぞ。
なのにあの子は
ずっとずっと待ってるんだ。
いつも必ず土曜日の夜に
ふらっと何処かへ出かける土方が心配で、
ずっと屯所の玄関で待ってるんだ。

前に1度、
普段は夜中の1時〜2時には大抵帰ってくる土方が、
3時を過ぎても一向に屯所に帰ってくる気配がなく、
沖田君はそれでも
真冬の玄関でずっと待っていたことがある。
4時近くになってやっと帰った土方が、
玄関で頭に雪を積もらせながら倒れている
氷の様に冷たい沖田君を発見した。

その後沖田君は病院に運ばれ、
1週間あまり入院した。

沖田君が入院した週の土曜日、
俺と関係をもってから初めて、
土方は俺の家に来なかった。
聞くところによると、
土方は暇さえあれば病院に通い、
沖田君を看病していたらしい。


…そんなに沖田君が大事かよ。
俺との週1回だけの約束も
簡単に破っちまうほど、沖田君が大事かよ。

沖田君を殺したくなった。

いつも沖田君を1番に考える土方を憎いと思った。


どれだけアイツを想ったら
俺のこの気持ちは愛と呼んでもらえるのだろう?

呼んでもらえないのなら、
それ以上は望まない、ただ、
何でもいい、この胸をしめつける気持ちに名前が欲しい。



ベッドの広い日曜日が終わり、
騒がしい月曜日が来る。
騒がしい月曜日が終わり、
もっと騒がしい火曜日が来る。

そうやって過ごしてるうちに、
ベッドの広さは元に戻る。

そのままずっとお前を忘れてしまえたらいいのに。



それでも土曜日はやってくる。

沖田君の一件以外は、
毎週必ずここへやって来ているお前に、
俺は愛を期待してもいいのか?

「じゃあな」

部屋を出る時お前が言うのは決まってこの言葉。
その言葉を聞く度に
愛されている訳ではない現実へ引き戻される。


もしもその夜の終わりに聞く言葉が、
「じゃあな」じゃなくて
「おやすみ」だったら。


そうしたらもう少しの間、
俺は期待していることができるのに。


でも全部、俺のわがままだから。


愛を期待できないならせめて…

終止符くらいは俺に打たせてほしい。
これを最後のわがままにするから。



もっと早く出会えていたら、
俺達は同じ道を歩めたかもしれないのに。
もっと長く会っていられたら、
俺達は心を重ねることも出来たのに。




最後の土曜日。

「俺は弱い。ごめんな、銀時。」

お前は言った。

今更何だよ。
俺のやっとの決心、無駄にするつもりか?
ずりぃんだよ。
枕元の時計を伏せながら、お前は俺に微笑む。
どうしてそんなに俺に優しくすんだよ。

どうせ優しくするなら
そのままその笑顔くずすんじゃねえぞ。
優しすぎるお前の嘘を、見抜きたくない。




お前、知らなかっただろ。

キスをする度に目を閉じていたのは、
未来を見たくなかったから。
抱きしめられるとときめいた心は
お前をまだ信じていた。

でももう遅い。

きっと最初からちゃんとこう言えばよかったんだ。

声に出さないまま俺は

「…愛してる」

初めての言葉を叫んだ。






おわり。

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