† NOVEL †
□闇夜の哀歌
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追想曲
黒いコートが風に揺れて断続的に揺れている。
時刻は真夜中。
時々野良犬の遠吠えが聞こえてくるが、それ以外に生き物の気配はない。
あるいは、闇に呑まれた都市は、それ自体が一つの生き物のようにも見える。
それとも、巨大な胃袋か。
屋上から下界を見つめる狩人の目には、何の感情もこもっていなかった。
ある一つのものだけを探して、油断なく、あくまで冷静に冷たい視線を送っている。
標的が近くにいないことを悟ると、薄汚れた夜空には目もくれず、狩人はコートの裾を翻してそこから立ち去った。
狩人の足音が響き、黒一色に染まった姿が、さらなる暗闇へと溶け込んでいく。
狩人は目にかかった前髪を気だるそうにかきあげたが、右手がベルトに差し込んだ銃から離れることはない。
動きに無駄がなく、歩みにはほんの少しの狂いもないが、それとは反対に、緊張と憎しみ、そしてほんのわずかに残る別の感情とが入り混じって、狩人の表情は奇妙にゆがんでいた。
こんなに険しい顔をしていなければ、もっと綺麗に見えるのだろうが、近寄りがたい独特の雰囲気を持ったこの狩人は、もう何年も笑ったことがないようだった。
今夜は月が見えない。
そのことが、狩人をいつもよりピリピリさせていた。
特に、こんな大都会の細長い路地を歩くのは、体力よりも精神のほうに負担がかかる。
狩人は目を細めて、前方だけをじっと見つめていた。
視覚よりも、聴覚を重視しているからだ。
『暗闇では、目よりも耳を頼ったほうがいい』
いつだったか、自分にそう助言してくれた人は、微笑みながら狩人のことを見ていた。
温かく、優しい目をした「あの人」。
しかし、年月が過ぎた今、記憶に残る笑顔はいつだって冷たい嘲笑を浮かべて、狩人の胸に鋭い傷をつけていく。