† NOVEL †
□闇夜の哀歌
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それは急な知らせだった。
知らせを聞いた瞬間、シリルの耳から音が消えた。
実際にはそんなはずはなかったが、その時はそのように感じたのだ。
涙を流す暇もなかった。
ただ、アレシアがすがるように絡めてきた指を、条件反射のように握り締めていた。
「今日から貴方が当主です。
シリル・ベルモンド様」
その声が、シリルの体を鎖で巻きつけたように動けなくしてしまった。
ロワイエ・ベルモンドが殺された。
殺したのは、未だ正体のわからない「襲撃者」であるらしかった。
その時、シリルはただ悲しんでいた。
葬儀が終わり、シリルがベルモンド家の当主として正式に就任した数日後、突然その衝動はシリルに襲いかかってきた。
父を殺した者に対する、際限のない憎しみだ。
生まれて初めて抱く感情だった。
シリルはその感情を持て余し、どうにもできずにいた。
ちょうどその頃、エヴァルトは仕事で、その一か月前にフルールを去っていた。
シリルはほんとうに一人ぼっちだった。
誰にも涙を見せることができなかった。
アレシアにも、母にも、叔父にも。
そして、ベルモンド家の誰一人として、シリルが隠れて泣いていることを知らなかった。
エリオがそれに気づいたのは偶然だったが、必然といえばそうだった。
エリオもまた、シリルと同じ感情を経験していたからだ。
「シリル」
ある夜、エリオはテラスにいたシリルに呼びかけた。
「泣いていいんだよ」
シリルが必死に目を瞬かせていると、エリオの手がシリルの肩に触れた。
温かかった。
しかし、それは痛みでもあった。
これは現実なのだ。
誰かに慰めてもらえる悪夢ではないのだと、シリルは絶望的になっていた。
「当主になるっていう重みは、俺にはわからないよ。
だけど――わかるよ、シリルの気持ち。
憎いんだろ?」
シリルは頷いた。
エリオにだからこそ言える、生々しい感情だった。
「俺も憎いよ」
エリオは血が滲みそうになるくらい、固く拳を握った。
「なあ、シリル。
俺とお前で、そいつを殺そう。
この世界にいる魔物を全部滅ぼすんだ。
もう誰にもこんな思いはさせたくない」
シリルは涙で歪んだ視界で、エリオを見つめた。
シリルにとって、エリオのその言葉は光だった。
シリルの胸に、怒りとも悲しみとも違う、別の感情が湧きあがった。
これから先、シリルの原動力となっていくであろう、新たな使命感だった。
もう二度と、誰も傷つかないように、守っていくんだ。
それが負の感情でなかったからこそ、シリルは立ち上がれた。
自分が一人ではないと知った安堵と、やるべきことが定まった満足感から、シリルは涙を拭い、エリオの目をしっかりと見た。
「絶対やってみせるわ」
右腕の刻印が、それに呼応するかのように熱を持った。
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