† NOVEL †

□闇夜の哀歌
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「お久しぶりですね」

 シリルはフィルマンに微笑みかけた。

フィルマンも同じように微笑み返しながら、シリルに調査結果を手渡した。

「ごめんなさい。
本当は私が行かなければならないのに……。
これだけは、どうしても決心がつかなくて」

「わかりますよ」

 フィルマンも笑顔を翳らせた。

 先代ロワイエ・ベルモンドが死んだグレーヌでの調査結果は、ほとんど意味がなかった。

ロワイエと他の狩人が泊っていた宿は激戦のためか、何も残っていなかったのだ。

「そちらはどうですか?」

「他の狩人からの調査結果も届いているんですが、まだ何もわかっていないんです」

 シリルが調査結果に目を通していると、フィルマンがコートの裏ポケットから分厚い本を取り出した。

「それは?」

 シリルは調査結果から目を離した。

表紙には、タイトルの代わりに日付と焼け焦げがあった。

「ロワイエ様の日記です」

 シリルの心臓に鈍い衝撃が走った。

金具で殴られたような気分だった。

「そう……何か書いてあった?」

「まだ読んでいません。
これは貴方が読むべきかと」

 シリルは日記を受け取り、その表紙を――父の最期の瞬間を読み取ろうとするかのように――指先で撫でた。

「ありがとう。
少し、一人にしてもらえますか?」

 フィルマンは黙って頷き、シリルは一人部屋に残された。

すぐに日記を読み始めるのは不可能だった。

 それには、何度かの深呼吸と紅茶が必要だった。

シリルは震える指でページをめくった。

 最初の日付は今から二年前、まだ襲撃事件の起きていない頃だ。

 日記はほとんどが母のこと、そしてシリルとアレシアのことについてだった。

 シリルは頬を温かいものが伝うのを感じながら、それを拭うこともせず、ただページをめくっていた。

 そこに何か襲撃者に関する手掛かりがあるとは思っていなかった。

しかし、日記の日付が今年に入ってからは、襲撃者のことばかり書かれていた。

ただの感想ではなく、ロワイエは徐々に核心に近づいているようだった。

 不思議なことに、ロワイエは伝承とベルモンド家の歴史書を読み漁っていた。

日記に、気になった個所がメモ代わりに書かれていた。

 ベルモンド家が倒した魔物の中で、特に強力な者の名前が並んでいる。

その中に信じられない名前を見つけ、シリルは背筋がぞっとした。

 こめかみを押さえたが、目が疲れている訳ではなかった。



 ――エヴァルト・ソルヴェーグ。


 彼の名前が、はっきりと記されていた。
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